“Japan Mobility Show 2025”で未来のバスを見てきた! [ PART III ]

“Japan Mobility Show”は、自動車だけでなく、ロボットや空飛ぶクルマなども含めたモビリティの最新技術やデザインの一大見本市で、今回参画したのは522の企業・団体で過去最多となり、会期中の来場者はのべ101万人に達しました。
これまで2回にわたり“Japan Mobility Show 2025”のバス関連の出展を紹介してきましたが、PART III となる今回が最終回。
海外メーカーや自動運転バスなどの出展をボリュームたっぷりに、『バスグラフィック』イメージガールとともに見ていきます。
近ごろよく見かけるBYDの出展は?

最近、全国各地のバス事業者でEV(Electric Vehicle:電気自動車)バスが積極的に導入されています。
その中でも、中華人民共和国のメーカーBYD製のEVバスをよく見かけるようになりました。
今回、BYDはバス・トラックなどの商用車と乗用車のブースを分けて展開。
商用車のブースで3台のEVバスの出展がありました。
早速、1台ずつ見ていくことにしましょう。

BYDブースでまず見るのはEV大型フルフラットノンステップ路線バス“K8 2.0”(ケーエイト ニーテンゼロ)です。
現在、全国各地のバス事業者に導入が進んでいて、本記事をご覧の方でも実際に見たり乗車したりしたことのある方も多いでしょう。
カタログ上の諸元は、全長10.5m、全幅2.495m、全高3.27mで、ホイールベース(前後の軸距)は5.3mです。
容量314kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーに電気を蓄え、永久磁石同期モーターで走行、最高出力は200kWです。
充電口は広く普及しているCHAdeMO(チャデモ)規格のもので、充電時間は常温環境下で90kW充電器を使用した場合は約3時間半、1回の充電での走行距離は約240kmです。

“K8 2.0”の車内に入ってみます。
前方から後方への眺めで、基本的に座席レイアウトは全て前向き座席となっています。
カタログでは座席レイアウトが都市型と郊外型の2種類あり、運転席側にある2台分の車イススペースとなる、はね上げ式座席4席が1人掛けになるか2人掛けになるかの違いです。
都市型の乗車定員は80人、郊外型の乗車定員は76人で、出展車は都市型の座席レイアウトです。

“K8 2.0”の車内で最も特徴的なのがフルフラットノンステップ構造により、通路部分が前方から最後部座席手前まで段差なく続いている点です。

中扉以降の座席下には運転席側、扉側ともに段差があります。
運転席側にある右後輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)直後の座席は窓際の1人掛けのみで、タイヤハウスにより床面が平らでないため、通路からの出入りを考慮して通路際の座席を設けていないものだと思われます。
座席へ安全に立ち座りを行ったり、減速時に前方への飛び出しを防止したりするため、座席周囲には手スリを設けていることも特徴です。
これらの仕様は扉側の左後輪タイヤハウス廻りも同じです。

最後部座席は1人掛け前向き座席を5席組み合わせた5人掛けです。
シートバック直後の部分には、薄いグレーで角が丸みを帯びた長方形のプレートを3つ取り付けていますが、それらはUSB(Universal Serial Bus:データ転送規格)ポートです。
全部で6口あり、スマートフォンをはじめとするモバイル機器の充電を行うことができますが、USBポートは側窓下にもいくつか備えています。

運転席の様子です。
充電残量などを表示するメーターパネルが未来的です。
ステアリングホイール(ハンドル)左側には、前進・中立(ニュートラル)・後退を選択するプッシュボタン式ミッションセレクターとホイールパーク式パーキングブレーキのレバーがあります。

出展車の右側面には前後ホイールアーチ(タイヤ部分のボディ切り欠き)に合わせるように、プラグインハイブリッドSUV (Sport Utility Vehicle:スポーツ用多目的車)“SEALION 6”(シーライオン シックス)の右側面が描かれた、インパクトあるラッピングが施されていました。
台風の目となるのか? 注目のEV中型ノンステップ路線バス

つづいて紹介するのはEV中型ノンステップ路線バス“J7”(ジェイセブン)です。
現在、地方の路線や狭隘(きょうあい)路線では、大型路線バスより一回り小さい全長8~9m、全幅約2.3mの中型路線バスが数多く活躍しています。
中型路線バスのサイズ感は、日本独自の規格と言えますが、BYDではその日本独自規格を考慮して設計したEV中型路線バスを2025年1月24日に発表し、今後の普及をねらっています。
本記事制作中にはまだ事業者への導入情報は入ってきていませんが、“Japan Mobility Show 2025”に出展され注目されていたことから、詳しく見ていくことにしましょう。

“J7”の外観は、EV大型フルフラットノンステップ路線バス“K8 2.0”の全幅を狭め、全長を短くしたようなスタイルで、“K8 2.0”の弟分的な印象です。
フロントガラスは1枚モノで、前面行先表示器窓と一体化したような構造になっています。
灯具類も丸型となっており、フロントデザインは“K8 2.0”と共通モチーフです。

リアウィンドウと後面行先表示器窓を一体化したような1枚モノのリアガラスや、丸型の灯具類から、リアデザインも“K8 2.0”と共通モチーフとなっています。
カタログ上の諸元は、全長8.99m、全幅2.3m、全高3.205mで、ホイールベースは4.4mです。
容量216kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーに電気を蓄え、永久磁石同期モーターで走行、最高出力は300kWです。
充電口はCHAdeMO規格のもので、充電時間は常温環境下で84kW充電器を使用した場合は約3時間、1回の充電での走行距離は約200kmです。

“J7”の外観で特筆すべきものの一つが前扉です。
包み込むように開閉するグライドスライドドアですが、国産大型路線バスで多く見かけるような扉を左右2枚に分け開閉するタイプではなく、1枚モノの扉であることが目をひきます。

車内に入ってみましょう。
前方から後方への眺めで、基本的に座席レイアウトは全て前向き座席となっています。
“J7”もカタログでは座席レイアウトが都市型と郊外型の2種類あります。
それらの違いは、都市型が19席であることに対し、郊外型が21席になることに加え、運転席側にある1台分の車イススペースとなる、はね上げ式座席2席が1人掛けになるか2人掛けになるかです。
最後部座席はいずれも5人掛けとなっています。
都市型の乗車定員は58人、郊外型の乗車定員は54人で、出展車は都市型の座席レイアウトです。

運転席側の右前輪タイヤハウス以降の座席の様子です。
1人掛け前向き座席が4席ありますが、後ろ2席がはね上げ式座席となっており、はね上げると1台分の車イススペースとなります。

EV大型フルフラットノンステップ路線バス“K8 2.0”と、基本的には同じ車内仕様であるため一見すると分かりませんが、両手を広げてみると全幅約2.3mの狭さを感じることができます。

“K8 2.0”と同様、左右後輪タイヤハウス直後の座席は窓際の1人掛けのみとなっていますが、“K8 2.0”と“J7”ではタイヤハウス形状の違いから、足元の処理が異なっていることが分かります。
座席周囲に手スリを設けていることは“K8 2.0”と同様です。

少しユニークに感じたのは手スリ上にメモリーブザー(降車ボタン)を備え付けていることで、扉側の左後輪タイヤハウス上の座席も同様です。

最後部座席の扉側の席には窓際のこのような位置にメモリーブザーがあることも特徴です。
シートバック後ろにはUSBポートを備え付けていることも分かります。
最後部座席用としてこの他にもう1カ所USBポートがあります。

最後部座席から前方への眺めです。
今回“Japan Mobility Show 2025”に出展された“J7”は、前中扉間ノンステップ仕様で、中扉以降が段上げになっていましたが、“K8 2.0”と同様のフルフラットノンステップ仕様もあるとのことです。

最後部座席用以外にも側窓下にはいくつかUSBポートを備え付けています。
1つにつき2カ所の口があり、スマートフォンをはじめとするモバイル機器の充電を行うことができます。

開いた前扉を車内側から見た様子です。
1枚モノのグライドスライドドアで、扉は前方へ開くことが分かります。
扉の窓部分に斜めに2本取り付けた手スリもユニークです。

プレスデーでは出展車の運転席に座ることができたことから試しに座ってみました。
座席台座部分にサスペンションがあり、着席すると沈み込むことで、ドライビングポジションが決まる感覚です。
ステアリングホイールをつかんだ感覚はもちろんのこと、各種スイッチ類への操作性も優れているように思いました。

運転席の様子です。
“K8 2.0”の運転席と仕様は変わらず、全幅が狭い分、コンパクトにまとめた印象です。
スイッチ類も形状を統一し、機能的にズラリと配置されています。
EV小型ノンステップ路線バスの可能性を提案

さて、突然ですが、ここは一体どこでしょうか?
正解は「バスの中」です。
BYDではEV小型ノンステップ路線バス“J6 2.0”(ジェイシックス ニーテンゼロ)をベースにした「J6リビングカー」を提案しました。
こちらは「J6リビングカー」の車内に設けたテーブルとイスで、モバイルオフィスをイメージしているそうです。

“J6 2.0”は、コミュニティバスでの使用を想定し、日本独自規格を考慮した設計ですが、フロントマスクは丸型の灯具類を前面両端に寄せ、縦に配した独特なものです。
こちらも都市型と郊外型があり、左側面の乗降扉は都市型が2カ所、郊外型が1カ所となりますが、出展車の「J6リビングカー」は郊外型をベースにしていることが分かります。

EV小型ノンステップ路線バスをベースにした特装車の提案となっていますが、出展車の外観は、カラーリングデザインが路線バスのイメージではないことを除き、基本的には路線バス仕様と大きな違いはないようです。
右側面の非常扉も「J6リビングカー」では出入口として活用していました。
“J6 2.0”のカタログ上の諸元は、全長6.99m、全幅2.09m、全高3.06mで、ホイールベースは4.76m。
容量138.3kWhのリン酸鉄リチウムイオンバッテリーに電気を蓄え、永久磁石同期モーターで走行し、最高出力は140kWです。
充電口はCHAdeMO規格のもので、充電時間は常温環境下で90kW充電器を使用した場合は約2時間、1回の充電あたりの走行距離は約210kmです。

左側面の出入口から車内に入ると、車内中央に鎮座(ちんざ)する大きなテーブルと、キャスター付きのイスが目に飛び込んできます。
デスクワークやミーティングなどに使用することをイメージしているようです。
運転席側の窓には大型モニターも備え付けています。

車内前方から後方への眺めです。
非常扉手前には、お洒落(しゃれ)なデザインのパーティションを備え付けています。
乗降扉側には本棚もあります。
最後部手前は段上げとなっており、壁のようなパーティションと扉で仕切られていますが、奥には何があるのでしょうか。

パーティションと扉で仕切った車内最後部には、意外にもシンプルにベンチシートがあるだけでした。
パーティション側には折りたたみ式のテーブルを備え付けています。
造花による装飾のため、こちらも一見してバスの車内だとは思えない雰囲気です。

車内後方から前方への眺めです。
車内は基本的に、テーブルとキャスター付きのイスのみというシンプルな構成です。
運転席付近は段上げとなっており、乗降扉前方には木目調のパーティションを設けています。

運転席の様子です。
これまで紹介してきた車両と同様、視認性の優れたデジタルメーターパネルや、統一されたデザインのスイッチ類など、機能的にまとめています。
少々不思議に感じたのは、ダッシュボード中央部分の上で赤く「停車」と光る次停車表示灯を備え付けていた点で、特装車でありながら路線バスの装備が見られたことです。
自動運転バス関連の出展は?

“Japan Mobility Show 2025”レポート最後の締めくくりは、会場に出展された自動運転バスを中心に簡単に見ていきます。
まずはスズキのブースに展示された“Glydcar”(グライドカー)です。
軽自動車並みの小型EVで隊列自動運転します。
予約型利用のオンデマンド都市交通システムを開発するアメリカ合衆国の企業“Glydways”(グライドウェイズ)との協業による出展です。

東京都スタートアップ戦略推進本部では、持続可能な都市を高い技術力で実現するという理念を掲(かか)げ、“Sustainable High City Tech Tokyo”を略した“SusHi Tech Tokyo”というテーマで、5社と協業出展。
その中の1社であるTier IV(ティアフォー)は、中国のPIX Moving(ピクシームービング)製の車両をベースにした自動運転バス“Minishuttle”(ミニシャトル)を出展しました。

初出展となるロッテグループは6社が1つのブースに出展し、BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)の自動運転バス“MUVU”を展示。
マルチセンター融合型自動運転と、高精度車両統合制御システムによる最適なルートナビゲーションを行い、大韓民国で初めて最高時速40kmの走行許可を取得した車両です。

住友三井オートサービスのブースでは、同社とスマートモビリティ事業を行っているBOLDLY(ボードリー)が連携し、全国の自治体で行っている自動運転バスの実証実験をPR。
特定の条件下での完全自動運転が可能なレベル4の自動運転技術を備える、中国PIX Moving製の最新式自動運転バス“ROBOBUS”(ロボバス)を出展しました。

AVITA(アビータ)は、インターネット上の自分の分身キャラクター「アバター」の社会実装や、AI(Artificial Intelligence:人工知能)を活用したサービスを行う新進気鋭の企業。
同社はNTTビジネスソリューションズの展示協力を経て、会場内のツアープログラム“Tokyo Future Tour 2035”に出展しました。
会場ではフランス共和国の自動運転バスメーカーNavya(ナビヤ)製の自動運転EVバスを使用し、「自動運転EVバス × アバターバスガイド」の車体展示を行いました。

ブリヂストンのブースでは群馬県の電気自動車メーカー・シンクトゥギャザー製のEVバス“eCOM-8”(イーコムエイト)を展示。
“eCOM-8”は自動運転バスではありませんが、バスタイプのグリーンスローモビリティで、すでに導入事例もあり、未来のモビリティとして注目を集めています。
会場には次世代タイヤである非空気充填(じゅうてん)タイヤ“AirFree”(エアフリー)の装着例で展示されていました。
※ 写真 ・文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事中に公開している写真は報道公開日に撮影したもので、情報も当日の取材時点のものです。
記事中の車両についてのお問い合わせなどをメーカーや関係各所へ行わないようお願い申し上げます。
この記事をシェアしよう!
フォローする
FaceBookのフォローは2018年2月で廃止となりました。
フォローの代わりにぜひ「いいね!」をご活用下さい。

