なにわを駆け続けてきた大阪シティバスのフルフラットノンステ! [前編]

これまで、「バスギア ターミナル × バスグラフィック」のコラボレーションによるWEB記事でもいくつか取り上げており、車内の段差を一切廃した国産BEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)フルフラット路線バスのいすゞエルガEVなどは記憶に新しいところです。
路線バスのバリアフリー化としては最近のトレンドにも感じられるフルフラットノンステップバスですが、意外にも古くから製造・販売実績がありました。
今回は、国産ノンステップ路線バスが普及し出した頃のフルフラットタイプの大型ノンステップ路線バスで、今なおなにわ路(じ)を駆け続けている大阪シティバスの車両を徹底的に紹介します。
なぜ貴重? 大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改型

大阪シティバスは大阪市内全域に路線網を展開している事業者です。
同社のルーツは、大阪市交通局(大阪市営バス)の関連会社として1988年に設立された大阪運輸振興で、2014年に現社名に変更されました。
そして、2018年の大阪市営バスの民営化により、全路線を継承し、現在に至ります。
同社は大阪市営バス時代の1997年から大型ノンステップ路線バスの導入を開始しましたが、そこで導入したのが日産ディーゼル工業(現・UDトラックス)製のエンジン・シャーシに、富士重工業(現・SUBARU)製のボディを架装した車両で、車内通路に段差を設けず、スロープ状にしたフルフラットタイプでした。
そして、2004年に導入したフルフラットタイプの大型ノンステップ路線バスが、今回紹介する車両です。

大阪市営バスでは今回の記事で紹介する大型ノンステップ路線バス、日産ディーゼルKL-UA272KAM改を、2004年に合計18台導入しました。
これらの車体は富士重工製ではなく、「西工」(にしこう)の通称でおなじみの西日本車体工業製の96MC(きゅうろくエムシー)ボディを架装しています。

はじめに、日産ディーゼルの大型ノンステップ路線バスの歴史を振り返ってみます。
同社では1997年から製造・販売を開始しており、車軸を低い位置に配置したドロップアクスルと、4速AT(Automatic Transmission:自動変速機)を採用したことが特徴です。
これらはいずれも、ドイツ連邦共和国の自動車部品メーカー・ZFフリードリヒスハーフェン製です。
そして、エンジンを横置きし、車内通路をフルフラットにしましたが、試作車扱いでした。
車体には富士重工製を架装しました。
上掲写真はその一例で、1997年式の横浜市交通局の日産ディーゼルUA460KAM、局番7-4504(横浜22か9192)です。
日産ディーゼルでは翌年に型式認証を取得し、本格型として製造・販売しましたが、1999年にはエンジンの出力をアップした新しい型式になりました。

一方、ボディメーカーの西工では、1999年に日産ディーゼル製大型路線バスの前中扉間ワンステップ車をベースとして、改造扱いで前中扉間ノンステップ車を製造・架装しました。
前中扉間ノンステップ車は、その翌年に日産ディーゼル製大型ノンステップ路線バスの廉価版としてラインナップされるようになりました。
その時から、日産ディーゼル製大型ノンステップ路線バスは当初の通路フルフラットタイプに対し、前中扉間ノンステップタイプを「Gタイプ」と呼び分けるようになりました。
上掲写真は西工製ボディの「Gタイプ」の一例で、西武バスの2005年式日産ディーゼルKL-UA452KAN改、社番A5-53(所沢200か・785)です。

日産ディーゼル製大型ノンステップ路線バスに前中扉間ノンステップタイプがラインナップされるようになると、富士重工でも「Gタイプ」のボディの架装が行われるようになり、それまでの通路フルフラットタイプと比較して、多くの事業者に導入されました。
上掲写真は富士重工製ボディの「Gタイプ」の一例で、道北バスの2002年式日産ディーゼルKL-UA452PAN(旭川200か・219)です。
同じGタイプのボディでも西工製とはフロントデザインを中心に各部のデザインが異なっています。

2003年に富士重工がバスボディ製造・架装事業から撤退すると、日産ディーゼル製バスのボディには西工製のみが架装されるようになり、それまで富士重工が架装していたフルフラットタイプの大型ノンステップ路線バスのボディも、西工が架装するようになりました。
そこで、日産ディーゼルの通路フルフラットライプの大型ノンステップ路線バスに架装されるボディについては、富士重工製は頭文字の“F”を取って「Fタイプ」、西工製は頭文字の“N”を取って「Nタイプ」と呼び分けられるようになりました。
今回紹介する大阪シティバスの通路フルフラットタイプの大型ノンステップバス、日産ディーゼルKL-UA272KAM改は、まさにその「Nタイプ」です。

大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改は、多くの事業者が前中扉間ノンステップタイプの大型路線バスの導入をするようになった中での通路フルフラットタイプの導入で、比較的珍しい例です。
通路フルフラットタイプから始まった国産大型ノンステップ路線バスの歴史を、2026年の今日にも伝えるようで、貴重な存在であると言えそうです。
車両の特徴と外観のポイントは?

大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改を詳しく見ていく前に、ここで日産ディーゼル工業と西日本車体工業についても簡単に触れておくことにしましょう。
日産ディーゼル工業は、1935年に創立された日本デイゼル工業がルーツで、戦後、民生(みんせい)産業、民生デイゼル工業への社名変更を経て、日産自動車が資本に参加したことで1960年に日産ディーゼル工業へ社名変更しました。
そして、2010年には現社名のUDトラックスとなっています。
民生時代から本格的にバスの製造・販売を行い、戦後の復興、高度経済成長を支えてきましたが、2012年にバスの製造・販売事業から撤退しています。
また、西日本車体工業は、福岡県を中心に鉄道・バスを運行する「西鉄(にしてつ)」の愛称でおなじみの西日本鉄道の子会社にあたるバスボディメーカーです。
戦後から一貫してバスボディの製造・架装を行ってきましたが、長らくは西日本のバス事業者への架装が大多数で、東日本のバス事業者ではほとんど見られませんでした。
1990年代末頃から路線バスのバリアフリー対応が求められるようになると、東日本のバス事業者でも西工製ボディ架装のノンステップ路線バスの導入が積極的に行われ、全国的に見られるようになりました。
しかし、西工は2010年にバス製造・架装事業を終え、会社組織を解散しています。

それでは、大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改の外観を見ていくことにしましょう。
今回取材したのは、大阪市西端に位置し、大阪湾に面した区の大正区にある大阪シティバス鶴町(つるまち)営業所で、そこに所属する、社番(大阪シティバスの固有番号)74-0522(なにわ230い・522)です。
2026年1月31日現在、大阪シティバスでこの他に活躍している日産ディーゼルKL-UA272KAM改は、取材した鶴町営業所の社番74-0522以外に5台ありますが、それぞれ社番、登録ナンバーと所属営業所は以下のとおりです。
●社番:74-0520(なにわ200か・520)住之江(すみのえ)営業所
●社番:74-0532(なにわ200か・532)酉島(とりしま)営業所
●社番:74-0533(なにわ200か・533)鶴町営業所
●社番:74-0535(なにわ200か・535)井高野(いたかの)営業所(教習車)
●社番:74-1362(なにわ230あ1362)酉島営業所
このうち社番74-0535は、教習車として活用しています。

鶴町営業所に所属する社番74-0522(なにわ230い・522)のフロントバンパー廻りです。
西工96MCボディは、灯具類をバンパー内にビルトインした構造が特徴です。
左右ヘッドライト下に足掛け、フォグランプとポジションランプがありますが、大阪シティバスの仕様として、バンパー上部にステップを取り付けていることが特徴です。
フロントガラスは2分割で、左右で下辺がそろっている西工の「B-I型」と呼ばれるタイプですが、西工製の路線バスボディにはもう1種、運転席からの左方視界を広げるため、扉側のガラスが切り下がっている「B-II型」と呼ばれるタイプもあります。

前面行先表示器は方向幕式です。
近年の大型路線バスの行先表示器はLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式がほとんどで、従来の方向幕式の車両も電光式に改造されるケースが多くありますが、大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改は、導入当初からの方向幕式の状態を保っています。

社番74-0522(なにわ230い・522)は、車検証上のデータによると初度登録は2004年3月です。
車体は全長10.52m、全幅2.49m、全高2.96mで、ホイールベース(前後の軸距)4.8mとなります。
乗車定員は60人です。
前扉は左右両側に分かれ、包み込むように開閉するグライドスライドドア、中扉は引戸で、側窓は一部を除き、上段引き違い・下段固定の通称「逆T窓」です。
屋根上前後には真上から見ると丸型となるファンのカバーがあり、中ほどにはゼクセル(現・サーモキング・ジャパン)製冷房装置のカバーがありますが、この型式へのゼクセル製冷房装置の採用例はあまりありません。
カラーリングデザインは大阪市営バス時代からのクリーム色をベースに、ライトグリーンのラインを配したものとなっています。

中扉直後には側面行先表示器窓がありますが、こちらも方向幕式のままです。
側面行先表示器には途中のバス停が表記されますが、方向幕式ならではの見やすさが感じられます。

中扉の床下部分には引き出し式スロープを備えています。
この型式が導入された2000年代前半は、路線バスのバリアフリー対応が急がれていた時代で、多くのノンステップ路線バスが引き出し式スロープを採用しました。
近年導入される新車のノンステップ路線バスは反転式スロープが主流となっています。

大阪市営バス時代からの特徴的な仕様が、左後輪に取り付けたタイヤカバーです。
左折時の巻き込み事故を防止するための装備で、大阪シティバスになって導入している新車にも継続して採用されています。

エンジンを縦置きしている車内最後部のエンジンルームの関係から、左側面の側窓は車体最後部ギリギリまでは設けていないことが特徴です。
左最後部側窓も正方形に近い形状の固定窓を備えており、最近導入されている大型ノンステップ路線バスには見られないスタイルとなっています。
後ろ姿にも多くのポイントが…

大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改、社番74-0522(なにわ230い・522)の後面です。
エンジンルームの大きさから、リアウィンドウの天地寸法が小さくなっており、リアウィンドウ下にくぼみがあることが分かります。
これは同時期に製造・販売されていた西工96MCボディ架装の日産ディーゼル製大型ノンステップバス「Gタイプ」ではこのくぼみの部分もリアウィンドウとなることから、「Nタイプ」である日産ディーゼルKL-UA272KAM改の大きな特徴と言えます。
リアバンパー上にはステップを備え付けています。

エンジンは縦置きで、最高出力240馬力、総排気量12,503ccの直列6気筒インタークーラーターボ付きディーゼルエンジンPF6型を搭載しています。
大阪シティバスの広報担当によると、独特なエンジン搭載方法によりメンテナンスに苦労した経験があり、現在は入手できない部品もあるとのことです。

リアガラスは3分割となっています。
後面行先表示器はリアウィンドウの車内側に収めていますが、こちらもLEDによる電光式ではなく、方向幕式です。
リアウィンドウ直上には後退時確認用のバックアイカメラを備え付けています。

エンジングリルは右最後部側窓の下に設けていますが、車体後端部にも縦長のグリルを2段構えで設けていることも特徴です。

右側面の側窓も車体最後部ギリギリまでは設けていないことが特徴です。
非常扉横にある右最後部側窓も正方形に近い形状の固定窓となっています。
その横にある2つのリッド(点検ぶた)は、左がラジエーターのサブタンク用、右がパワーステアリングのリザーブタンク用のものです。

非常扉と運転席の引き違い窓の間にある右側窓は、ピッチの小さい逆T窓が5枚並んでいることが特徴です。
逆T窓は、上段引き違い窓の境の線とその下に位置する窓枠の関係がアルファベットの“T”を逆さまにしたように見えるスタイルの側窓であるため、そのように通称されます。

ノンステップバスであるため、右側窓の下辺と右側面前方にある運転席の引き違い窓の下辺は大きな段差はありません。
タイヤホイールは前後輪ともにISO(International Organization for Standardization:国際標準機構)の10穴(けつ)となっており、この車両が導入された2004年当時の大型バスはJIS(Japanese Industrial Standards:日本産業規格)の8穴が主流であったことから、珍しい存在でしたが、これはドイツのZFのドロップアクスルを採用していることからです。
なお、両側窓とリアウィンドウに標記されている白い丸囲みの「ツ」は鶴町営業所所属車を意味します。
後編では車内を紹介しますが、大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改の神髄(しんずい)とも言える通路フルフラット構造をたっぷりとお見せします、お楽しみに!
※ 取材協力 : 大阪シティバス株式会社
※ 写真(特記以外)・文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。
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