なにわを駆け続けてきた大阪シティバスのフルフラットノンステ! [後編]

ただ、「フルフラットノンステップバス」は、路線バスのバリアフリー化が本格的に始まった今から25年ほど前に、国産大型ノンステップ路線バスでもすでに見られました。
今回は、国産ノンステップ路線バス黎明(れいめい)期に登場したフルフラットタイプの大型ノンステップ路線バスで、今なおなにわ路(じ)を駆け続けている大阪シティバスの車両を前後編に分けて徹底的に紹介していますが、この後編記事ではいよいよ、その神髄(しんずい)とも言える車内の通路フルフラット構造を紹介します。
通路フルフラットの大型ノンステップ路線バスの車内は?

大阪市内全域に路線網を展開している大阪シティバスは、2018年の民営化以前となる大阪市交通局(大阪市営バス)時代に、通路フルフラットタイプの大型ノンステップ路線バスを導入していました。
今回紹介するのは、「西工」(にしこう)の通称でおなじみの西日本車体工業製ボディを架装した、日産ディーゼル工業(現・UDトラックス)のKL-UA272KAM改型です。
2004年に各営業所へ18台導入されましたが、2026年1月末のデータでは鶴町(つるまち)、酉島(とりしま)、住之江(すみのえ)、井高野(いたかの)の4営業所に6台が残り、活躍を続けています。
記事ではその中で、鶴町営業所に所属する社番(大阪シティバスの固有番号)74-0522(なにわ230い・522)を取り上げていますが、いよいよ車内に入ってみることにします。

前扉から乗車し、車内前方から後方を眺めます。
座席は左右前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)上にある最前列座席が1人掛け前向き座席で、その直後にある座席は運転席側、扉側ともに3人掛けの横向き座席となっています。
中扉以降は全て前向き座席です。
座席表皮のモケットの上には全席、透明ビニール状のシートカバーを取り付けていますが、2025年日本国際博覧会(2025年大阪・関西万博)の作業員輸送に充当した際、座席モケットの汚れを防止するためのものとのことです。

運転席側の3人掛け横向き座席はオレンジ色のモケットを採用しており、優先席となっています。
近年導入される国産大型ノンステップ路線バスは、運転席側に横向き座席を設けておらず、ノンステップバス黎明期の座席レイアウトの試行錯誤が見て取れます。
大阪シティバスの広報担当に横向き座席を採用した理由を尋ねたところ、ノンステップ化により燃料タンクを床上に置いた関係から、横向き座席を採用したとのことでした。

運転席側の3人掛け横向き座席の直後には座席を設けておらず、フリースペースとなっています。
ただし、床面には車イス固定装置の金具を備え付けており、1台分の車イススペースにもなります。

扉側の3人掛け横向き座席は緑色のモケットを採用した一般席となっていますが、折りたたみ式となっており、折りたたむと1台分の車イススペースとなります。
床面には車イス固定装置の金具を備え付けています。
近年導入される国産大型ノンステップ路線バスの車イススペースは運転席側にあり、折りたたみ式の前向き座席を装備していることから、こちらも現在の目で見ると珍しく感じます。

中扉廻りの様子です。
大阪シティバスは中扉から乗車し、前扉から降車する「中乗り・前降り」方式ですが、その乗降方式にはつきものであるIC(Integrated Circuit:集積回路)カード乗車券のカードリーダーや整理券発行器が中扉廻りに見当たりません。
その理由は、大阪シティバスは均一運賃で、中扉からの乗車時にはIC乗車券のカードリーダーへのタッチや整理券の受け取りが不要であるためです。
いよいよ中扉以降のフルフラットな通路を見てみる

車内中ほどから後方への眺めです。
最後部座席手前まで通路がフルフラットになっていることが分かります。
各座席の下は段差が発生しますが、通路は幅も比較的広く取られており、意欲的な造りになっています。
中扉直後の仕切りは薄型の物入れボックスを兼ねており、作業用の手袋などを収納できます。

通路は後方にかけてスロープ状に上がっていき、座席下もひな壇(だん)状に処理されています。
路線バスをノンステップ化するにあたっての試行錯誤が見て取れる部分であるとも言えます。
大阪シティバスの広報担当によると、大型ノンステップ路線バスを当初導入する際の資料が残っており、そこに「通路スロープの方が、車内事故が少ないと考え、それ以降の車両も通路スロープ方式にした」と記載があったとのことで、今回紹介している日産ディーゼルKL-UA272KAM改が導入された一つの理由にもなりそうです。

路線バスのノンステップ化で、座席レイアウトで最も苦労する部分が後輪タイヤハウス廻りです。
この車両は後輪タイヤハウスの高さをうまく利用し、座席の脚代わりにしていますが、タイヤハウス前後は丸みを帯びた傾斜となり、特に座席への出入り時に足元が悪くなるため、小さなステップを設け、足元が平らになるような工夫がされています。

フルフラットの通路は、車内前方から最後部座席手前まで伸びていますが、最後部座席へは2段のステップを上がって着席する形となります。
床上張りは通路部分も段差部分もともに石目模様が施されていますが、導入当初の全体的な色調はアズキ色のような茶色をしていたとのことです。

車内最後部の運転席側の様子です。
最後部座席手前にある段差は広々としており、最後部座席と非常扉横の座席との前後の間には手スリと仕切りを設けています。
最後部座席の運転席側の窓は固定窓となっています。

車内最後部の扉側の様子です。
こちらも最後部座席とその直前にある座席との前後の間には手スリと仕切りを設けています。
また、最後部座席横の窓は運転席側と同様の固定窓となっています。
最後部座席の足元は広々としている印象です。

最後部座席は5人掛けで、クッションが2人掛けと3人掛けで分割されています。
透明ビニール状のシートカバーはシートバックのみに掛けられており、座面はモケットのままとなっています。
車内後方から前方を眺めてみると…

最後部座席から車内前方への眺めです。
車内後方は全て前向き座席で構成していますが、シートバック裏面も側窓下と同様の茶色になっていることが分かります。
縦に設けた手スリは、中扉廻りや前方の一部を除いて、ダークブラウンのゴム系被膜(ひまく)で覆ったものとなっています。

最後部座席手前に設けた仕切りにある縦の手スリには、扉側、運転席側ともに1つずつメモリーブザー(降車ボタン)を後方に向けて備え付けています。

車内後方から前方へ向かって、通路は段差なくなめらかに続いていることが分かります。
中扉以降の前向き座席は中扉直後にある1人掛けを除き、全て2人掛けとなっています。
一部の座席にはシートバック裏面にメモリーブザーを備え付けていることも分かります。

車内中ほどから前方への眺めです。
つり革はモカ色で、側窓下の茶色の色調に合っています。
運転席側の右前輪タイヤハウスから運転席への段差の立ち上がりが滑らかな処理になっており、立ち上がり部分には車輪止めの収納スペースのリッド(ふた)が見えます。
フロントウィンドウ直上には、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による車内案内表示器を備え付けています。
扉側、運転席側ともに横向き座席には、前輪タイヤハウスと面した部分にモケットと同色のクッションを取り付けています。

扉側の左前輪タイヤハウス上には、上面を手スリで囲った物入れボックスを備え付けています。
また、近年の大型ノンステップ路線バスには設けられていないケースも多い、左前輪タイヤハウス上の最前部の座席も、この車両にはきちんとあります。

運転席側の右前輪タイヤハウス上にも、上面を手スリで囲った箱状の装備がありますが、この中にはヒーターユニットがあり、下部にはヒーターの吹き出し口が見えます。

運転席直後の仕切りの様子です。
シンプルな構造で、上半分は広告枠と鶴町営業所管轄の路線図の貼り付けスペースとなっていますが、端の部分は透明素材でできています。
下部にはメモリーブザーも備え付けています。
肝心要(かんじんかなめ)の運転席は?

最後に運転席の様子を見ていくことにします。
現在の車両と比較するとメーター類はアナログ的ですが、視認性に優れたデザインで、スイッチ類も機能的にまとめています。
ステアリングホイール左側には系統設定器のモニターと後退時確認用のバックアイカメラの映像を映し出すモニターを備え付けています。

日産ディーゼルは、前後アクスル(車軸)とATに、ドイツ連邦共和国の自動車部品メーカー・ZFフリードリヒスハーフェン製のZF製パーツを多用し、短期間の開発で大型ノンステップ路線バスを世に出したことが特徴です。
そのようなことから、大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改も、ZF製の4速AT(Automatic Transmission:自動変速機)となっています。
このATは、オイルを使ってエンジン動力を変速機に伝えるトルクコンバーター方式のAT(トルコンAT)で、“ECOMAT”(エコマット)という愛称が付けられています。
操作はボタン式であることが分かります。

運転席ダッシュボードの真ん中には、引き出し式スロープと車内のはね上げ式座席の状態を示すパイロットランプと、トルコンATの油温計を備えたパネルを設けています。

運転席脇にあるスイッチボックスです。
上面には前扉と中扉のスイッチや車内放送装置のボタンがあり、側面には冷房装置や屋根上のファンの操作スイッチを設けています。
屋根上のファンはバスをはじめとした車両電装品を製造しているゴールドキング製です。

ダッシュボード上面には前扉の非常コックを備えています。
この位置に非常コックを設けている例は少なく、珍しい位置にあると言えます。
大阪シティバスで今も活躍する通路フルフラットタイプの国産初期の大型ノンステップ路線バス紹介記事、いかがでしたでしょうか。
実は今春、「バスギア ターミナル × バスグラフィック」のコラボレーション記事では、「日産ディーゼル/西工特集」を展開します!
次回、イベントレポートをはさんだ後で、今回の大阪シティバスの日産ディーゼルKL-UA272KAM改紹介記事に次いで、非常に興味深い「日産ディーゼル/西工特集」の記事をお届け予定でいますので、どうぞご期待下さい。
※ 取材協力 : 大阪シティバス株式会社
※ 写真(特記以外)・文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。
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