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世界自然遺産の屋久島へ初導入! ヒョンデEVバスELEC CITY TOWN[後編]

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2025年4月21日、大韓民国の自動車大手、現代(ヒョンデ)自動車の日本法人である「ヒョンデ・モビリティ・ジャパン」(Hyundai Mobility Japan)が、屋久島のバス事業者へEV(Electric Vehicle:電気自動車)路線バス“ELEC CITY TOWN”(エレク・シティ・タウン)を5台納車したことから、屋久島いわさきホテルにて納車式が行われました。
今回、国内バス事業者へは初導入となった“ELEC CITY TOWN”を前後編に分けて紹介していますが、後編では車両そのものに注目します。

先進的だが親近感のあるヒョンデ“ELEC CITY TOWN”

ヒョンデのEV路線バス“ELEC CITY TOWN”は2023年に登場し、2024年末から日本国内での販売を開始しました。
前中扉間ノンステップ構造の路線バスで、前扉は折戸、中扉は左右に分かれて包み込みように開閉動作するグライドスライドドアとなっています。
各扉の有効幅は前扉が0.75m、中扉が1.06mで、中扉直上にはLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による車外照射灯を備え付けています。
“ELEC CITY TOWN”のデザインは、先進的でありながらも親しみが持てるものとなっています。
屋根上には前方に2パックのリチウムイオンバッテリー、後方にデンソー製のエアコンを備えており、ボディ四方とデザインの一体感を持たせたカバーによって覆われています。
“ELEC CITY TOWN”が装備している145kWhのリチウムイオンバッテリーは、「三元系」とも通称されるプラス極側にニッケル(Nickel)、コバルト(Cobalt)、マンガン(Manganese)を使用したNCMリチウムイオンバッテリーで、韓国のメーカーSK on製です。
車体のサイズ感は、全長が国産メーカーの中型路線バスと同様の約9m、全幅は収容力が大きい約2.5mとなっており、国産メーカー製のものとは異なった存在感があります。
ヒョンデによると厳密には全長が9mに満たないことから、観光バス仕様などにして高速道路を通行する際は車種が「中型」に区分され、中型料金が適用されるとのことです。

後面にはリアウィンドウを備えており、その下のリッド(点検ぶた)内には電子機器および補器類を収めたPE(Power Electrical)ルームがあります。
リアウィンドウ廻りからリッドにかけては一段くぼんだデザインとなっており、キャラクター性を持たせているような感覚です。
おもな灯火類が丸型となっていていることもデザイン上の大きな特徴と言えます。
右側面の最後部側窓下には電装品の熱を逃すためのグリルを設けています。
そして、輸入車でありがならも右側面後方には国内法規に準拠した非常口扉を設けていることも大きなポイントです。
“ELEC CITY TOWN”は、国内法規に準拠した車体規格となっており、ワンマン路線バスに必要な機器の装備に対応していることが見て取れます。

クローズアップ! “ELEC CITY TOWN”

ここからは、“ELEC CITY TOWN”の外観の特徴やメカニズムをもう少し詳しく見ていくことにしましょう。
カタログ記載の基本仕様の諸元によると、全長8.995m、全幅2.49m、全高3.4mです。
ホイールベース(前後の軸距)は、4.42m、フロントオーバーハング(車体前端から前輪中心までの距離)は2.37m、リアオーバーハングは2.205mとなります。
アプローチアングル(車体前端の最下部と前輪の接地点を結んだ線が地面に対する角度)は8度、デパーチャーアングル(車体後端の最下部と後輪の接地点を結んだ線が地面に対する角度)は10.5度です。
車両重量は10.315t、車両総重量は13.34tとなります。
乗車定員は55人です。
種子島・屋久島交通が導入した車両は、白を基本とした車体にスカイブルーとグリーンの流れるようなラインをあしらったクリーンな印象のカラーリングデザインとなっており、車体両側面と後面には、廃棄物を限りなくゼロにしようとする取り組みである“ZERO EMISSION”のロゴがあしらわれています。
なお、特に屋久島での運行を考慮したカスタマイズは行われていないとのことです。

丸型のプロジェクター式LEDヘッドライトとフロントウィンカーを前面下部の車体両端に備え、その上方にLEDによる丸型のデイタイムライニングライトを装備している斬新な面構(つらがま)え。
扉側のコーナー部分にある小さな丸いパーツは、運転席からの死角にある障害物を検知するSEW(Safe Exit Warning)センサーです。
フロントパネルにはヒョンデのエンブレムといわさきグループのマークがあり、“ELEC CITY”の車名ロゴも輝いています。

フロントウィンドウと前面行先表示器窓は一体感を持たせたデザインとなっています。
フロントガラスは2分割構成で、前面行先表示器はLED表示となっています。
フロントウィンドウ上の屋根の左右両端にあるのはLEDによる車高灯です。
ミラーにはヒーターが装備されています。

前中扉間の側窓は固定窓で車体との段差をなくし、フラッシュサーフェイス感を追求していますが、種子島・屋久島交通の仕様として、LEDによる側面行先表示器を中扉直前の側窓の内側に備えています。
窓の下部にある丸いボタンは非常時に手動で扉を開閉することができる非常ドアバルブで、前扉の脇にも取り付けられていますが、輸入車のバスではよく見られる装備です。

左側面は中扉直後の側窓、右側面は3枚の大きな側窓が上段固定・下段横引きのT窓となっていますが、下段は引き違い窓ではなく、一方が固定的となった横引き窓です。
こちらも車体との段差を極力少なくしたセミフラッシュサーフェイスタイプとなっています。

リアコンビネーションランプも丸型で、左右それぞれ縦に4灯ずつ並んで構成されています。
そして、左側面最後部側窓下の長方形のリッドは充電口のものです。
充電口は2口あり、充電方式はCHAdeMO(チャデモ)規格で、急速充電器に対応しています。
1口あたり最大90kWでの充電が可能で、2口利用して急速充電した場合、外気温や車両の状態により変動はしますが、充電状態100%に至るまで充電時間は最短で50分とのことです。
1口のみ利用した場合でも2~3時間で充電が完了できるとのことです。
フル充電での走行距離は200km以上となります。

種子島・屋久島交通の車両は、リアウィンドウ内にLEDによる後面行先表示器を備えています。
リアウィンドウ直上には後退時確認用のバックアイカメラを取り付けており、その上の屋根付近には左右にハイマウントストップランプを装備しています。

リアバンパーにある4つの黒い丸い部品は、PDW(Parking Distance Warning:後退時車両直後確認装置)のセンサーで、後退時に超音波センサーで歩行者と障害物を感知し、運転席に表示と警告音で注意喚起します。
リッド内のPEルームには、高電圧の直流電流を低電圧に変換するDCDCコンバーターや直流を交流に変換するインバーター、高電圧バッテリーから各機器へ分配するジャンクションボックスといった電装品がおもに収められています。
走行用には、最高出力160kWのセントラルモーターを後輪直後の車体底部に搭載しています。

“ELEC CITY TOWN”の車内に潜入(せんにゅう)!

“ELEC CITY TOWN”の外観の特徴やメカニズムを理解したところで、いよいよ気になる車内に潜入してみましょう!
車体前方から後方への眺めで、前中扉間はノンステップエリア、中扉以降が段上げとなっています。
座席は全て前向きのもので構成されています。
左右前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)にもそれぞれ1人掛け前向き座席を設けています。
床上張(ゆかうわば)りは大理石調の模様となっています。

ノンステップエリアの運転席側の1人掛け座席3席ははね上げ式となっており、はね上げると2台分の車イススペースとなります。
床面には車イス固定用の金具を備え付けています。

ノンステップエリアの扉側の中扉直前にある座席は2人掛け前向き座席となっています。
この座席に限ったことではありませんが、座席表皮は合成皮革(ごうせいひかく)で、はね上げ式などの一部の座席を除き、座席の構造はグリップ一体型となっています。

中扉は2枚に分かれて包み込むような動作で開閉するグライドスライドドアです。
床面には車イスの乗降などに使用する反転式スロープを設けています。
前側の仕切り付近には、整理券発行器とIC(Integrated Circuit:集積回路)カード乗車券のカードリーダーを備え付けています。

中扉以降の段上げエリアの様子です。
通路をはさんで左右に2人掛け前向き座席を2組ずつ設けています。
通路は2段で広い踏みヅラの広いステップを兼ねた形になっていますが、段上げエリアにはつり手を備えていません。
仕切りはパンチングメタル模様を施したボードになっています。

最後部座席は、電装品などを収めているPEルームがある関係などから囲まれ感のある3席となっており、座席は1席ずつ独立したスタイルです。
ちょうどこの最後部座席の下付近に走行用のセントラルモーターが搭載されています。

最後部座席から車内前方への眺め。
座席のシートバックは灰色の樹脂部品で構成していることが分かります。
手スリは天井に向かうにしたがって緩(ゆる)やかに外側へ湾曲しているため、車内に圧迫感はなく、広々として快適な印象です。

運転席と車内の気になるポイントは?

運転席は計器盤が湾曲したフォルムで、ボタンやスイッチ類がシンプルなデザインとなっていることから運転操作がしやすい印象です。
メーターパネルは液晶表示となっており、前進・中立(ニュートラル)・後退を選択するプッシュボタン式ミッションセレクターを、ステアリングホイール(ハンドル)左側の計器盤に収めています。 その上にはマルチインフォメーションシステムの12.3インチのタッチパネル式液晶モニターを装備しています。
ステアリグホイール左側のスポークの間に少し見えるレバーは、ワイパー操作と2段の回生ブレーキ操作を行うためのものです。
なお、回生ブレーキ作動時はブレーキ灯が点灯します。
そして、計器盤右側の上辺に見える黒い台形状の装置はDSW(Driver State Warning:ドライバーモニタリングシステム)です。
DSWは、運転席に備え付けたカメラで乗務員の状態をモニタリングし、居眠りやわき見運転の危険性があると判断すると計器盤に表示を行い、警報音を鳴らして注意喚起します。
その上のピラー(窓柱)には路線バス運行を行うための機器である系統設定器を備え付けています。

運転席の座席は、エアサスペンション(空気ばね)装備のマルチファンクションシートです。
ヘッドレストも装備しており、座席表皮は合成皮革となっています。

それでは、気になる“ELEC CITY TOWN”の細かなポイントを見ていくことにしましょう。
車内の座席付近に合計7カ所のUSB (Universal Serial Bus:データ転送経路)ポートを備えており、スマートフォンをはじめとするモバイル機器の充電を行うことができます。

車内の手スリに球状のメモリーブザー(降車ボタン)を7カ所取り付けています。
人体模型の球体関節のようでユニークですが、立席(たちせき)客も容易に降車の意思を知らせることができます。

メモリーブザーはピラーにも備え付けていますが、丸い形状で押すとボタン全体が光るタイプとなっています。
ボタンそのものが大きいため、こちらも容易に降車の意思を知らせることができます。

運転席直後の座席上にはEDSS(Emergency Driving Stop System:ドライバー異常時対応システム)の非常ボタンを装備しています。
乗務員が急病で通常の運転が困難になっていることを発見した際などにこのボタンを押すと、車両を自動的に減速させて緊急停車させます。
運転席にも非常ボタンを備えています。
また、非常時に窓ガラスをたたき割って車外へ脱出することのできるレスキューハンマーも5カ所に備え付けています。

車内後方の天井にはエアコンの装置が見られます。
換気と除湿、空気清浄機の機能を備えた電気集塵(しゅうじん)式です。
大きな丸型メモリーブザーが天井や側窓上にある冷房ダクトにも備え付けられていることが分かります。

いよいよ本領発揮(ほんりょうはっき)の “ELEC CITY TOWN”!

今回、種子島・屋久島交通に導入された“ELEC CITY TOWN”は5台で、登録ナンバーはそれぞれ「鹿児島200い3333」「鹿児島200う・333」「鹿児島200え・888」「鹿児島200く8888」「鹿児島230き・・88」と数字がゾロ目になっていることが特徴です。
納車式の際に行われたあいさつとメディアへの質疑応答では、“ELEC CITY TOWN”の性能的には屋久島の自然環境下での運行は何ら問題ないとのことでしたが、県の機関が入る熊毛(くまげ)支庁屋久島庁舎前にある「合庁(ごうちょう)前」バス停とヤクスギランドとの間を結ぶ往復約30kmの「ヤクスギランドルート」および、屋久島で2番目に大きい集落の宮之浦(みやのうら)にある「宮之浦港」バス停と白谷雲水峡(しらたにうんすいきょう)との間を結ぶ往復約25kmの「白谷雲水峡ルート」での運行は懸念がありました。
それはいずれも急こう配や急曲線が連続するルートであるため、観光シーズンで利用客が多い場合の立席乗車の安全確保についてのものでしたが、営業運行までに試走や検証が重ねて行われ、特に問題がないとの結論にいたったようで、6月2日から開始した営業運行では「ヤクスギランドルート」「白谷雲水峡ルート」のほか、宮之浦港と安房港(あんぼうこう)を結ぶ路線で使用しています。
導入した5台全ての“ELEC CITY TOWN”が営業運行に供されており、充電時間を確保しながら使用されています。
ヒョンデには実際に営業運行された後、乗務員から「出力が高く、加速がスムーズ。そして、ギアチェンジ操作がないことから運転時の疲労感が軽減される」という意見や、乗客から「走行中の揺れが非常に少ないうえ、長時間着席していても身体がラクである」という意見が届き、“ELEC CITY TOWN”は屋久島で大いに歓迎されているようです。

国内では初導入となるヒョンデの中型EV路線バス、“ELEC CITY TOWN”は屋久島でいよいよ本格的な営業運行を始めました。
納車式のあいさつで、現代自動車グループ(HMG:Hyundai Motor Group)の張在勲(チャン・ジェフン)副会長は「この美しい自然と共生する地で、“ELEC CITY TOWN”が走る姿を見て、屋久島のゼロエミッションアイランドへの挑戦とともに歩めることは、カーボンニュートラルの実現に向けた大きな一歩である」と語っており、まさにその一歩が始まった格好です。
また、ヒョンデの七五三木 敏幸(しめぎ・としゆき)代表取締役社長は、屋久島でゼロエミッションのEVバス導入を実現することはヒョンデの強い願いであったとし、「安全性、快適性、経済性を兼備した“ELEC CITY TOWN”は地域住民や観光客にとって新しい価値を提供するうえ、さらに災害時の電力供給といった地域のレジリエンス強化にも寄与している。今回の取り組みは屋久島が目指す持続可能な観光と地域づくりに貢献し、全国に広がる公共交通のスタンダードになると確信している」と語り、“ELEC CITY TOWN”を始めとするヒョンデのEVバスの今後の国内での展開が大きく注目されています。

※ 取材協力 : Hyundai Mobility Japan株式会社
※ 写真(特記以外)・文 : 宇佐美健太郎

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