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江戸紫のニクイ奴(やつ) 都営バスの「いすゞエルガEV」 【前編】

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2023年2月に開催された日本バス協会の通常理事会で、同協会の清水一郎会長が「2023年はEV (Electric Vehicle:電気自動車)バス元年になる」と表明してから約3年。
確かに最近、街でEVバスをよく見かけるようになってきました。
ただ、日本国内で活躍しているEVバスは、中華人民共和国のBYDやアルファバス、大韓民国のヒョンデといったメーカーの輸入車勢が多い印象です。
そのような中、2年前に満を持(じ)して発売されたのが、日本初のBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)フルフラット路線バス「いすゞエルガEV」です。
そこで、「バスギア ターミナル × バスグラフィック」のコラボレーション記事では、2回にわたって「最近の国内EVバス車両事情」をテーマに展開します。
その第1弾は、東京都交通局(都営バス)が北自動車営業所に2台導入し、2025年6月10日より運行を開始した「いすゞエルガEV」で、前編と後編に分けて紹介します。
市販の国産EVバスというのもさることながら、そのカラーリングデザインが大きな話題を呼んだ都営バスの「いすゞエルガEV」をじっくり見ていくことにしましょう!

そもそも、「いすゞエルガEV」とは?

いすゞエルガEVは、公共交通機関としてのカーボンニュートラル化、および車内事故ゼロを目指す安全性という社会や市場からの要請を考慮し、開発されました。
具体的には、カーボンニュートラル社会実現への貢献、フルフラットフロアによる車内事故防止、従来のディーゼルエンジン搭載車との乗り換えも考慮した運転者への負担軽減の3つの開発ポイントを満たすパッケージングで、2024年5月28日に発売となりました。
同年10月31日には、統合商品として、いすゞエルガEVと同じ構造とデザインを持つ「日野ブルーリボンZ(ズィー)EV」も発売されました。
現在、各地の事業者に続々と導入されています。

BEVということから、肝心かなめとなる高電圧の三元系リチウムイオンバッテリーを屋根上や車体最後部下方に合わせて11個装備しています。
国内主流の350Vで充電できる高電圧のもので、トータル容量は242kWhです。
「三元系」とは、ニッケル、マンガン、コバルトの3つの金属元素を使用していることを意味し、高容量かつ高エネルギー密度が特徴です。
そして、左右後輪の車軸内側にはそれぞれ1基ずつインアクスルモーターを搭載。
モーター1基あたりの定格出力は87kW(約118馬力)で、最高出力は125kW(約170馬力)となり、2基合わせた最高出力は250kW(約340馬力)です(馬力のps値は編集部計算値)。
なお、充電方式はCHAdeMO(チャデモ)規格で、外気温20度、充電出力50kWの場合、3.2時間で20%の残量から80%まで充電できます。
フル充電での走行距離は、カタログの値で約360kmとなります。

車内にも大きな特徴があるのが、いすゞエルガEVです。
左右後輪の車軸内側にそれぞれ独立してモーターを搭載したことにより、後輪車軸の中ほどを低く抑えることができたことから、中扉以降も段上げがなく、フルフラットフロアを実現したのです。
通路はもちろんのこと、各座席下にも小さな段差がなく、つまずきの原因を極力排したことで、車内事故の発生リスクを減らしています。

また、最後部座席とその手前の座席は、運転席側、扉側ともにタイヤハウス(タイヤの収納部分)の関係から向かい合わせの形となっていることも、いすゞエルガEVの特徴です。
ただ、2000年前後に発売された黎明(れいめい)期の国産大型ノンステップ路線バスも、後輪廻りの座席レイアウトに試行錯誤が見られ、メーカーや型式によってさまざまな座席配置があり、最後部座席とその手前の座席が向かい合わせになっているものも存在しました。
よって、国産大型路線バスにおいて、向かい合わせ座席のレイアウトそのものが全く初めてというわけではありません。

江戸紫のニクい奴、都営バスの「いすゞエルガEV」

そんな、いすゞエルガEVですが、2025年4月21日登録で、都営バス北自動車営業所に2台が導入されました。
型式はZAC-LV828L1、局番(都営バスの固有番号)はN-M100およびN-M101になります。
東京都交通局は同年6月9日、東京都庁第一本庁舎玄関前で、局番N-M100を報道陣にお披露目(ひろめ)しましたが、そこで度肝を抜かれたのは、これまでの都営バスのイメージカラーにはなかった「江戸紫」をベースとしたカラーリングデザインであったことです。
EVバスであるため、「エコで、新しく、かっこいいバス」をコンセプトに、東京都旗の江戸紫を基調とし、特別感を演出したカラーリングデザインとして採用したとのことです。

今回、いすゞエルガEVを導入した背景について、東京都交通局では、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする「ゼロエミッション東京」の実現に貢献するため、都営バスにおいてZEV(Zero Emission Vehicle:走行時にCO2などの排出ガスを出さないEVや燃料電池自動車など)の導入拡大を進めています。
ただ、EVバス導入については、充電設備などのための十分なスペース確保や、早朝から深夜まで運行する中での充電時間の確保、1回の充電で走行できる距離が短いことなど、様々な課題があるため、2023年9月に東京電力ホールディングスと事業連携協定を締結し、大都市におけるEVバス導入モデルの構築に向けた検討を進めているところです。
その中で、まず、いすゞエルガEV2台をパイロット導入し、実際の営業路線で運行することで、車両性能や効率的な充電方法などの検証を進めていくことになったとのことです。

車検証上のデータによると、車体は全長10.54m、全幅2.48m、全高3.33mです。
また、いすゞエルガEVの主要諸元表によると、ホイールベース(前後の軸距)は4.99mとなります。
乗車定員は68人です。
前扉は折戸、中扉は引戸で、側窓は一部を除き、上段引き違い・下段固定の通称「逆T窓」です。
引き違い窓中央の境の縦の線と、引き違い窓と固定窓の間にある窓枠の横桟(さん)の関係が、アルファベットの“T”を逆(さか)さまにしたように見えるため、そう呼ばれているようです。
北自動車営業所に導入された理由は、既存の変電設備が活用可能であり、他の営業所に比べて電気設備の大規模な改修をすることなく、EVバス用の充電設備を速(すみ)やかに導入可能であったことがおもな理由です。
また、今回2台を導入した理由は、パイロット導入による実証を目的として導入台数を検討する中で、北自動車営業所は電気設備の大規模改修が不要であったことに加え、2台分の駐車スペースと充電設備の設置スペースを確保できたためです。

カラーリングデザインをよく見ると、ベース色となる江戸紫以外にも、緑色の大きなプラグを用いたデザインが描かれていることが分かります。
これはEVバスであることを分かりやすく示す意図があるほか、植物のつるに見立てたコードをデザインしており、よりエコなイメージを持たせています。
充電口は左側面最後部にありますが、営業運行する際には急速充電を行います。
外気温や車内空調設備の使用状況などにより、入庫時の電池残量は毎回異なりますが、仮に0%の状態から満充電にするには、約5~6時間かかるとのことです。
充電器は2口タイプのプラグイン式急速充電器を1基整備しました。
定格出力120kWで、充電規格はCHAdeMO Ver.2.0.2です。
なお、1日の中で運行および充電の時間は必ずしも固定されているわけではないため、運行スケジュールに適した充電となるよう、エネルギーマネジメントシステムを活用し、計画的・効率的な充電を行っているとのことです。

前面から外観細部を見ていくと……

ここからは都営バスに導入された、いすゞエルガEVの外観を細かく見ていきます。
江戸紫の前面リッド(点検ぶた)の中央には、東京都のシンボルマークが大きく描かれています。
登録ナンバー上の黒い台形状の装備は、フロントブラインドスポットモニターで、レーダーにより死角になりやすい車両直前の歩行者や自転車を検知し、自車に近付いた際は、警告表示で注意を喚起します。
衝突の可能性があると判断した場合は、乗務員に警告表示と注意喚起を行います。
フロントバンパーとヘッドライトケースは、一体感あるデザインですが、ここは江戸紫ではなく白となっています。
未来的なデザインのヘッドライトは、実はいすゞの小型トラック「エルフ」や中型トラック「フォワード」と同じ部品を活用しており、車幅灯やデイライト、フロントウィンカーがまとめられています。

前面行先表示器はフルカラーLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式です。
屋根上の盛り上がりは、高電圧の三元系リチウムイオンバッテリーを収めたカバーですが、側面には事業者名とともに“ELECTRIC BUS”の標記があり、この車両がEVバスであることを示しています。

側面行先表示器は前扉直後の広幅の側窓上部に収められています。
こちらもフルカラーLEDによる電光式です。
事業者名表示は、下部に都営バスマスコットキャラクター「みんくる」が顔をのぞかせている、遊び心あふれるデザインとなっています。
車体の事業者名を中扉戸袋窓内の下部に標記していることも特徴です。

中扉の床面には車イス乗降用の反転式スロープ板を装備しています。
これは特に、いすゞエルガEVならではの装備ではなく、10年ほど前から製造・販売しているノンステップ路線バスが標準的に備え付けている装備です。

後面から右側面にかけての外観の特徴は?

後面に目を向けると、上部にリアウィンドウを設けているように見えますが、後面に窓はありません。
後面行先表示器廻りを黒く処理したデザインになっており、こちらもフルカラーLEDによる電光式です。
後面行先表示器の直下にはハイマウントストップランプ、直上には後方確認用のバックアイカメラを備えています。

リアコンビネーションランプの様子です。
LEDによるテールランプ、ストップランプ、ウィンカー、バックランプがコンパクトにまとめられていますが、このリアコンビネーションランプ自体は、いすゞエルガEV独自のものではなく、汎用(はんよう)品です。

後面リッドの左側には超薄型の乗降中表示灯を取り付けています。
扉を開けるとLEDで「乗降中」の文字が点灯します。
中扉を開けて車イス乗降用の反転式スロープ板を展開すると、車イスマークと「乗降中」の文字が点灯します。

右側面後方の様子です。
車内は客席前方から後方まで段差が一切ないフルフラットフロアであることから、非常扉も車体スソまで伸びていることが特徴です。
非常扉付近には、都営バスと東京電力ホールディングスが事業連携協定を締結していることを示す“TOEI BUS × TEPCO”の標記が見られますが、同様の標記は左側面にも見られます。
また、右側面最後部には電装品を冷却するためのルーバーがありますが、2025年2月25日に「バスギア ターミナル」WEBコンテンツで公開した写真の、いすゞエルガEVのデモンストレーション車とは大きさが異なるうえ、ルーバー下部にあったグリルも廃止されています。

都営バスのいすゞエルガEVは、運用が固定されているわけではありませんが、おもにJR・東京メトロ王子駅を発着する路線で運行しています。
その日のいすゞエルガEVの運行情報は、インターネットホームページの「都バス運行情報サービス」の車両検索で「EVバス」と検索すると分かるとのことです。
後編では、いよいよ都営バスのいすゞエルガEVの車内に入ります。

※ 取材協力 : 東京都交通局
※ 写真・文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。

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