江戸紫のニクイ奴(やつ) 都営バスの「いすゞエルガEV」 [後編]

ただ、そのほとんどを中華人民共和国のBYDやアルファバス、大韓民国のヒョンデといった海外メーカー製の輸入車が占めている印象です。
そのような中、2年前に満を持(じ)して発売されたのが、日本初のBEV(Battery Electric Vehicle:バッテリー式電気自動車)フルフラット路線バス「いすゞエルガEV」です。
そこで、「バスギア ターミナル × バスグラフィック」のコラボレーション記事では、2回にわたって「最近の国内EVバス車両事情」をテーマに展開します。
その第1弾は、東京都交通局(都営バス)が北自動車営業所に2台導入し、2025年6月10日より運行を開始した「いすゞエルガEV」で、前編・後編に分けて取り上げます。
後編の今回は車内を詳しく紹介します。
都営バス初のいすゞエルガEVに潜入(せんにゅう)!

前編記事では特徴的な「江戸紫」をベースとしたカラーリングデザインの外観を紹介しましたが、車内はどのようになっているのでしょうか。
都営バスでは、いすゞエルガEV ZAC-LV828L1を2台導入しており、局番(都営バスの固有番号)はN-M100とN-M101をそれぞれに振ってます。
今回取材したのは局番N-M100です。
早速、前扉から乗車して車内の様子を見ていくことにしましょう。
車内前方から後方を眺めると、最後部座席まで床面に一切の段差がないことが分かります。
メーカーの仕様により、横向き座席と前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)上の1人掛け前向き座席が設けられていないことも分かります。

前中扉間の運転席側には折りたたみ式の1人掛け前向き座席を4席設けています。
全て折りたたむと、2台分の車イススペースになります。
座席表皮のモケットには、都営バスマスコットキャラクター「みんくる」をあしらっています。

折りたたみ式の1人掛け前向き座席近くの床下には、車イス乗車時に使用するリトラクター(巻き取り)式固定装置を収めています。
使用しない時はフタで覆われており、使用する時はフタを開けて取り出します。

一方、前中扉間の扉側には1人掛け前向き座席の優先席を2席設けています。
優先席のモケットの色は一般席よりも薄いブルーとなっていますが、「みんくる」をあしらっていることは変わりありません。

中扉の車内側です。
営業運行では出口になります。
中扉以降の床面を段上げしていないため、後ろ側の仕切りの床面取り付け部分も非常にスッキリとした印象です。
中扉前の床面には車イス乗降時に使用する反転式スロープ板を収めているほか、現在、運行している都営バスの他の車両と同様に、前側の仕切りにも格納式スロープ板を収めています。
中扉以降が真髄(しんずい)!?

中扉以降の車内こそ、いすゞエルガEVの真髄と言っても過言ではありません。
現在、都営バスで運行するほとんどの大型路線バスは前中扉間ノンステップ車で、中扉以降の床面は段上げとなりますが、この車両は一切の段差がないため、中扉の前に立って後方を眺めると非常にスッキリとした印象です。

中扉以降の座席で一番手前となる座席は運転席側、扉側ともに2人掛けの前向き座席となっています。
座席下部が後輪タイヤハウスと一体化したようなシンプルなスタイルとなっていることも特徴です。
扉側の座席はモケットの色から優先席であることが分かります。
扉との仕切り板もおしゃれなデザインです。

視線を落とすと、通路だけではなく座席下にも小さな段差がなく、乗客が座席への立ち・座りの際に足がさばきやすい造りになっています。
フルフラットノンステップ路線バス自体は、これまでも存在していましたが、このように座席下の小さな段差まで徹底的に廃したいすゞエルガEVは、画期的であると言えます。
小さな段差につまずかないような車内設計思想も、いすゞエルガEVの大きな特徴です。

扉側の最後部座席とその手前の座席の位置関係は向かい合わせとなっています。
側窓と最後部座席には、乗客の立ち・座りをサポートする手スリを備え付けていることも特徴です。
最後部座席にある手スリにはメモリーブザー(降車ボタン)を取り付けています。

運転席側の最後部座席とその手前の座席の位置関係も向かい合わせとなっています。
最後部座席とその手前の座席の間には非常扉を設けていますが、扉下部にも小さな段差が一切ないため、非常にアクセスしやすい造りになっていることが分かります。
非常扉右横の縦長の小窓は、固定窓となっています。

最後部座席は5人掛けです。
リアウィンドウがなく壁のようになっていますが、この後ろには電装品などを収めた機器スペースがあります。
手スリは2本あり、上部の取り回し形状がユニークです。
天井には、ドライブレコーダーのカメラを備え付けています。
後方から前方へ向かっても特徴がいっぱい!

最後部座席から車内前方への眺めです。
最後部座席と向かい合わせとなる座席は、左右ともに2人掛けの後ろ向き座席となります。
後輪タイヤハウス上に座席はなく、物置き台となっていることが分かります。

中扉付近から前方への眺めです。
格納式スロープ板の収納ボックスは意外に大きく、仕切りを兼ねていることが分かります。
つり革は前中扉間の手スリに装備しています。
床面のリトラクター式車イス固定装置のフタ上面は縞鋼板(しまこうはん)となっています。

車内前方の様子です。
左右前輪タイヤハウス上には、ともに座席がなく、左前輪タイヤハウス上にはパンフレット差しを備えています。
フロントウィンドウ直上には、車内案内表示器のモニターを装備しています。

運転席直後の仕切りは成型品で、床面から天井にまで至る大きなタイプとなっています。
目の高さに来る一部分は、客席側から見た時に透過性のあるポリカーボネートで出来ています。
その部分には、万が一、乗務員に体調不良などの異変が生じた場合に使用するEDSS(Emergency Driving Stop System:ドライバー異常時対応システム)の非常ボタンを取り付けています。
運転席ものぞいてみよう!

運転席全体の様子です。
運転席シートのモケットにも「みんくる」をあしらっています。
インパネ(計器盤)廻りはシンプルな造りとなっていますが、後退時に後方確認を行うバックアイカメラからの映像などを映し出すモニターと、系統設定器のモニターが目立ちます。

ステアリングホイール(ハンドル)廻りの様子です。
従来のディーゼルエンジン搭載大型路線バスのメーターパネルをベースにした造りで、EV固有の情報も分かりやすく表示するとともに、EV特有の操作を極力減らすように配慮した設計思想となっています。
車両の操作フィーリングは、メーカー側でディーゼル車に近いものとなるようチューニングしてあります。

ステアリングホイール左側には、セレクトボタンと電動パーキングブレーキのスイッチを備えています。
電動パーキングブレーキは、丸に囲まれた“P”の表示があるリブ(細長い出っ張り)付きのスイッチで、電動により軽いスイッチ操作で作動します。
万が一、未操作でキーを“OFF”にした場合、自動で作動してパーキングブレーキのかけ忘れを防止します。
ステアリングホイール下部の赤いボタンは、乗務員用のEDSS非常ボタンです。
運用開始前から今後のことまで、気になるところは?

都営バスでは初めてとなる本格的なBEVフルフラット路線バス「いすゞエルガEV」ですが、従来のディーゼル車とは大きく異なる点が多いため、東京都交通局の広報部門へ、運用開始前にどのような対応を行ったのかや、今後の導入計画はどのように考えているのかなどについて尋ねてみました。

まず、従来のディーゼル車と異なる点が多岐にわたるため、営業運行に就く前、乗務員に対してどのような対応を行ったのかと尋ねたところ、全乗務員を対象に、実車を用いた説明を行ったとのことです。
特に、アクセルの応答性や乗降手順、電動パーキングブレーキ、回生ブレーキの操作方法のほか、日常点検の方法や充電プラグの取り扱いなどに重点をおいて研修を行ったとの回答でした。

つぎに、現在の運行、充電、整備についても尋ねてみました。
運行および充電の時間は、必ずしも固定されているわけではないとのことでした。
運行スケジュールに適した充電となるよう、エネルギーマネジメントシステムを活用して、計画的・効率的な充電を行っているとの回答でした。
また、整備において特に注意している点としては、足廻りや床下を整備する際、安全に配慮し、車両のメインスイッチを必ず切ることとしているとの回答でした。

そうなると、今後の都営バスにおける国産EV路線バス導入計画も気になってきます。
2026年度は、北自動車営業所にEVバス2台を追加導入するほか、新たに深川自動車営業所に2台導入することを予定しています。
また、EVバスの導入に関しては、今後も車両性能や効率的な充電方法などの検証を行いながら、2027年度末までに10台程度の導入を目指しているとのことでした。
※ 取材協力 : 東京都交通局
※ 写真・文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。
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