伊東浩子の『私にも言わせてよ!』二.一期一会に思いを込めて
こんにちは。
暑い日が続きます。日没後、夜の帳が下りてからも気温が下がらないのは体感的に厳しいですね。
みなさま元気でお過ごしでしょうか。
26年前の夏、私は【研修生】の腕章をつけて師匠の指導を受けながら独車(一人立ち)に向けて実習中でした。とても暑かったことを良く覚えています・・・汗
当時、女性運転手は初めてのことでしたから、お客様も驚きや戸惑いの表情を見せられることが多く、その度に師匠はお客様の対応をしてくださいました。お客様の中には『宝くじ買ったら当たるかなぁ?!』なんて声もありましたね(笑)
さて、私は路線バスのハンドルを握る時いつも『お客様とは一期一会!』そう思うようにしていました。
路線バスは身近な移動の手段であり、日常生活の一部として利用されています。
当時、私を含めた乗務員の勤務は5勤2休。勤務ダイヤ表に添ってきちんとローテーションされているので毎日の出退勤時間は異なりますが、逆に来年の○月○日の勤務が分かる!といった感じでした。
そのため、数ヶ月毎に1度は同じダイヤが回ってくることは分かっていましたが、私たち乗務員からすれば同じ時間に同じ路線を続けて担当することはごく稀なこと。
一方、通勤通学でご利用のお客様は、そのバス停においてバスの運行状態や利用の仕方を全て把握されている“プロフェッショナル”。毎日同じ時間にバス停で待っていらっしゃいますから。
そのようなことを踏まえまして、今回は私が担当していた
『【田70】系統(新宿駅西口~田町駅東口)』であったお話をしたいと思います。
路線のプロフィールは新宿駅西口⇒新宿駅東口⇒新宿追分⇒新宿一丁目⇒四谷三丁目⇒信濃町駅前⇒青山一丁目⇒乃木坂⇒六本木駅前⇒一の橋⇒赤羽橋(三の橋)⇒慶應義塾大学前⇒札の辻⇒田町駅東口と、全長約11km要分約1時間の都心の路線バスとしてはちょっと長い路線。
みなさん地図を広げていただくと一目瞭然ですが山手線の内側を対角に走っています。
新宿を出発して繁華街を抜け、四谷三丁目から青山一丁目(東宮御所)にかけてゆったりと街路樹が美しい道を走り、再び六本木の賑やかな界隈を通って一の橋(麻布十番)。
ここで赤羽橋回りと三の橋回りの2経路に分かれ、再び慶應義塾大学の辺りで合流します。ちなみに“回り”とは経由のこと。札の辻で第一京浜国道(国道15号線-旧東海道)を横切り、山手線等の線路を越えてようやく田町駅東口で終点となる路線です。
ある日の朝、六本木バス停で乗車された女性のお客様。私は気付かなかったのですが、何度か乗り合わせていたご様子。他に乗車される方がいなかったこともあり声をかけて来られたのでしょう。
『定刻にバスが来たので、もしかしたら?!と思ったらやっぱり貴女だったのね!いつも利用しているけれどなかなか時間通りに来ないのよね。でも貴女の他にもう一人時間通り来る運転手さんがいるのよ。』
そう言われたのです。
長い距離を走り混雑する箇所もあり、道路の状況が読み難い路線でしたから仕方ないのですが、私はバス停の発着時間にはけっこう拘っていたのでこの一言は本当に嬉しかったですね。
今は電子スターフ(※)が搭載されているので各バス停の時間が分かりやすくなっていますが、20数年前のスターフには主要バス停の時間が記載されているのみでしたから感覚で計算して走っていました。
運行時間に詳しいお客様には『遅れている!』と言われると『何分遅れていますか?』と尋ねることもよくありました。
路線バスは乗降時に、乗務員はお客様と直接顔を会わせてやり取りをするので物理的にも心理的にもお客様との距離は近く、それだけに日常的にいろいろなことがありました。些細なことにも一喜一憂があって楽しかったですね。
ハンドルを握りながら見る風景は様々で、街路樹や道行く人々の姿に四季を感じましたし、長い路線なのでお客様も通勤通学や日常の買い物、仕事中の移動等ご利用のなさり方も多様でした。
何よりも新宿駅西口方向で札の辻から正面に東京タワーが見られて日没後のライトアップされた眺めはいつも圧巻でした。
都営地下鉄大江戸線の開業で廃止された路線ですが、私の大好きな路線でした。
私はいつも『いってらっしゃい。今日も良い日でありますように』『お疲れさまでした。無事にご帰宅を・・・』と心の中でつぶやき、これは自分への安全運転を心掛け努めるためのメッセージでもあり誇りとしていました。
バスを運転することが本当に好きでしたし、楽しく嬉しい日々でした。
※電子スターフとは、バス乗務員のその日の行路やバス停の通過予定時刻など運行に関する項目を記載しています。

執筆 伊東浩子 『バスギアスペシャルアドバイザー』
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