最高級の「黒いはとバス」ピアニシモⅢの乗務に密着!
8時半発のツアー、準備は7時から
ツアーは浜松町を朝出発して軽井沢に向かい、夜19時に東京駅に戻るという行程。この日乗務する山本 昇(やまもと・のぼる)さんは、運転歴30年以上のベテランです。浜松町バスターミナルの出発時刻は朝8時30分。これに合わせた山本さんの出勤時間は、営業所からの回想や点検などの時間を考慮した7時です。
山本さんは営業所に到着するとまず制服に着替え、7時20分に点呼場へと出向いてアルコールの呼気検査を受けます。続いて体調の報告。「睡眠時間は十分、体調は万全です!」。プロは体調管理も完璧です。
点呼を終えると、次は車両の始業検査。黄色いバスがずらりと並ぶ中、黒いボディの「ピアニシモⅢ」は他車と異なる存在感を放ちます。「最上級のバスですから、点検をはじめとする取り扱いにも気を遣います」と山本さん。エンジンルームの点検では、長距離運行に備えてオイル量を入念にチェックします。安全面の点検とともに、車体に汚れがないかどうかも重要なポイントです。
車内に入って運転席廻りの機器を確認し、チェックシートに記入。その後、デジタルタコグラフの設定を行って始業点検は終了です。「ピアニシモⅢ」ならではの作業として、社内用のスリッパやおしぼりなどのサービス備品の積み込みも行います。
始業点検を終えると再度事務所へ戻り、今度は運行ルート上の注意箇所や情報をまとめたファイルを確認します。このファイルは通行路の制限高の目安や駐車場の路面の起伏まで詳細に書かれているという、まさにドライバーのノウハウの積み重ねが生んだものです。
いよいよ出発!
営業所から浜松町バスターミナルまでは約30分かかるため、出庫は8時少し前です。出庫の10分前にもう一度「最終点呼」を受け、今日の運行ルートや最新の道路情報、各種の注意事項などを確認します。点呼を終えるといよいよ営業所を出発。ツアー客の待つ浜松町バスターミナルへ向け、山本さんがハンドルを握る「ピアニシモⅢ」は走り出しました。
浜松町バスターミナルでツアー客を迎え入れると、バスは定刻の8時30分、目的地の軽井沢へ向けて出発。一般道を経て関越自動車道を北へと向かいます。
高速道路での山本さんの運転はさすが運転歴30年以上のプロだけあって実に的確。先の先を読む運転で無駄な動きがなく、車線変更も極めてスムーズです。ツアーのスケジュールを厳守すべく、時速90~100kmを確実にキープして走ります。
「ピアニシモⅢ」は車内に快適なトイレを設置しているため、途中休憩は上里サービスエリアの1カ所のみ。15分の休憩時間は、乗客にとっては身体を伸ばしてリラックスするとともに、お土産などの買い物にも絶好の機会です。
休憩中も気配りの心を忘れず…
停車すると山本さんは運転席を立って車外へ。安全のため左前輪に車留めを設置するほか、出入口の下には段差が少なくなるよう、踏み台を用意して乗客の乗り降りに備えます。運転だけではなく、乗客1人1人に対して気を配る姿は、まさに観光バス乗務員の「規範」です。
ツアーは、クラシックホテルとして名高い「軽井沢万平ホテル」でのランチの後、白糸の滝など軽井沢の観光地を巡り、夕刻に帰路へ。スケジュール通り19時に東京駅丸の内口に到着し、山本さんは深々とお辞儀をして乗客を見送ります。本日の行程はこれで終了です。
車内清掃はガイドと分担
……といっても、山本さんの乗務が終わったわけではありません。まず営業所にバスを回送し、帰着後は給油と備品の積み下ろしのほか、同行のガイドの負担を少しでも減らすため、車内の清掃やマットレスの水洗なども分担して行います。
すべての作業を終え、山本さんが点呼場に姿を現したのは20時30分。アルコール検査、運行状況報告、デジタルタコグラフの内容チェック、次回乗務の行程確認を行い、就業点呼は無事に終了しました。休憩をはさんで13時間30分の乗務はこれで終了です。
運転の的確さはもちろん、乗客への気配りを常に忘れない姿勢が光る山本さんの姿。ハイグレード観光バスを運転するにふさわしいジェントルな心配りを持った乗務員の姿がここにありました。
次回は、ベテランドライバー山本さんへのインタビューをお届けします!
(文・編集:小佐野カゲトシ / 写真:伊藤岳志)
※本記事は2014年7月3日発刊の『バスグラフィック』Vol.21の掲載内容を再編集したものです。
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