いま振り返る「ノンステップバス」の歴史(2)実は「海外製」輸入の動きも?
実は海外車両輸入の動きもあった!
バス会社をはじめ、業界関係者が日本でもノンステップバスを導入すべきという考えを強く抱くようになった1つのきっかけは、1994年に行われたバス業界関係者向けの欧州視察ツアーでした。同ツアーに参加した鎌田氏は、「欧州の都市でノンステップバスが当たり前のように走っているのを見て、これは日本もなんとかしないといけないですね、という雰囲気になってきた」と語ります。
この頃から、次第に国内でもノンステップバス導入の機運が高まりを見せます。上の写真のように、 翌1995 年には⼤阪のバス会社、中央交通がドイツのメーカー、ネオプラン製のノンステップバスをサンプル車として輸入し、横浜や熊本で試走しました。そして同時期には、複数の公営バス事業者が海外製のノンステップバス導入に向けて具体的な検討を始めていたといいます。
鎌田氏は「ネオプランのサンプル車を見てノンステップがいいと感じる方が増えてきたこと、そして輸入車でもいいから導入したいという事業者が出てきたこと、そのあたりの動向が国内メーカーにも伝わって、ノンステップバスをやらないといけないという動きになってきたのだと思います」と、流れが変わってきた当時の様子を振り返ります。
技術面でのネックは「リアアクスル」
国産の量産型ノンステップバス実現はまだ先だろうと思われていたこの当時、実は技術的なメドはすでにある程度ついていました。
ノンステップバスの開発でネックとなるのはリアアクスル(後車軸)です。自動車の駆動軸には、カーブを曲がるときに生じる左右の車輪の回転数の差を吸収しつつ駆動力を伝えるための装置「デファレンシャルギア」(差動装置、通称「デフ」)があります。後輪を駆動するバスの場合は後軸にあり、この部分の出っ張りが床面を下げるうえでの障害になっていましたが、 国内メーカー4社がワンステップ・車内通路段差なしの「東京都超低床バス」 を開発した際、この課題を解決する部品がつくられていました。車軸をタイヤ中心よりも低い位置に下げる「ドロップアクスル」です。歯車関連技術のメーカーとして知られる大久保歯車工業が開発し、4社が共通で使用しました。この技術を使うことで、床面を下げることは可能になっていました。
もう1つの課題は車体でした。床が下がる分、窓の位置などを含む車体構造は従来のバスと比べて大きく変わってきます。この点で有利だったのが三菱自動車工業(現在、バス製造は三菱ふそうトラック・バスに分社化)でした。同社は1996年秋、路線バス「エアロスター」をモデルチェンジしていたためです。「ドロップアクスルの存在と車体のモデルチェンジがあったことで、材料は揃ってきていたといえるでしょう」と鎌田氏はいいます。
実は「フルフラット」だった黎明期のノンステップバス
そして1997年2⽉、三菱⾃動⾞⼯業は量産型のノンステップバスを発表。同じタイミング で⽇産ディーゼル⼯業(現・UDトラックス)からも、上の写真にあるノンステップバスUA460MAM型が登場しました。 1997年の「東京モーターショー」では、この2社に加えていすゞ自動車と日野自動車もノンステップバスを発表し、国内4メーカーの本格的なノンステップバスが勢ぞろい。ついに「ノンステップ時代」の幕が開きました。
各社のバスは、エンジンの配置などメカの構造はそれぞれに異なっていました。三菱はエンジンを従来のバスと同様に縦置きとしたうえで右側にオフセットして配置しましたが、ほかの3社はエンジンを横置きとし、アングルドライブ(斜め駆動)を採用。リアアクスルは三菱と日野が大久保歯車工業製、日産ディーゼルがZF社製、そしていすゞはハンガリーのラーバ社製と各社各様でした。上の写真は1997年の「東京モーターショー」で展示された三菱の量産型ノンステップバス、エアロスターKC-MP747M型です。
こちらは上の写真が大阪市交通局(現・大阪シティバス)へ導入された試作型式のノンステップバスで、日野ブルーリボンHU2PM型。下の写真も同様に試作型式のノンステップバスで、いすゞキュービックLV832L型です。4メーカーとも個性が際立っていましたが、 基本的に共通していた点があります。 いずれもドロップアクスルを採用し、最後部まで段差のない「フルフラット」が実現可能だった点です。フルフラットバスといえば、2018年に東京都交通局が導入した、スウェーデン・スカニア社製のシャーシにオーストラリア・ボルグレン社製の車体を架装したバスが話題となりましたが、実はその20年前に登場した国産初期のノンステップバスは「フルフラット」を実現していました。
しかし、現在の日本のノンステップバスは、中扉より後ろが一段高くなった「段上げ」の構造が標準仕様です。技術的には最初から可能だったにもかかわらず、なぜフルフラットは廃れてしまったのでしょうか。この続きは次回にご紹介することにしましょう。
※文:小佐野カゲトシ
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