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いま振り返る「ノンステップバス」の歴史(3)なぜ「国産フルフラットバス」は普及しなかったのか

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今では全国的に当たり前の存在となった「ノンステップバス」。その歴史をたどるシリーズの3回目は、初期の国産ノンステップバスが先進的な「フルフラット」構造だったものの、なぜその後廃れてしまったのか、その理由を振り返ります。ノンステップバスの発展に深く携わってきた元東京大学教授の鎌田実氏(現・日本自動車研究所長)のお話を基に、知られざるエピソードも交えつつご紹介します。

●なぜ「フルフラット」は廃れてしまったのか

紆余曲折を経て、1997~1998年に国内4メーカーが相次いで発表したノンステップバス。
その特徴は、リアアスクル(後軸)に床面を下げられる「ドロップアクスル」を採用し、最後部まで段差のない「フルフラット」を実現した点でした。しかし、現在の日本のノンステップバスは、中扉より後ろが一段高くなった「前中扉間ノンステップ」の構造が標準仕様です。技術的には最初から可能だったにもかかわらず、なぜフルフラットは廃れてしまったのでしょうか。

その理由は、一般のバスよりも高額な導入コスト、そして「座席定員が少ない」「ラッシュ時に詰め込みが効かない」点だったと鎌田氏は指摘します。現在の標準的な大型ノンステップバスは、中扉より後ろの段上げ部分に5列の座席が並ぶのが標準です。しかし、初期のフルフラット型バスの場合、中扉より後ろの座席は3列、または4列でした。

後部まで床面を低くしたフルフラット型の場合、相対的に後輪の部分が出っ張ってしまうため、この部分に座席をどのように配置するかが問題になります。初期のノンステップバスは、ここに後ろ向きの座席を設けた例が多く見られました。タイヤハウスの上に座席を設ける場合、背中合わせに設置すれば通路との段差を抑えられるためです。

初期の標準仕様は、三菱、日産ディーゼル、日野が後輪上に背中合わせの座席を設けた形で、中扉より後ろの座席は三菱が4列、ほかの2社は3列の配置でした。フルフラットといっても後部は車軸の関係でどうしても傾斜ができてしまうため、日野は前後軸間の長さ(ホイールベース)を広げて床が平らな部分を広く取り、その分後部の座席が少なくなっています。一方、いすゞはすべて前向きの座席を設置した4列配置が標準でした。上の写真は日産ディーゼルの大型ノンステップバス試作車の車内、下の写真はいすゞキュービックノンステップバスの試作車の車内です。

●座りやすさのためにあえて「段上げ」も

ただ、後ろ向きの座席は利用者に好まれず、後輪上にも前向き座席の設置を求める声が出てきます。すると床面との段差が大きくなってしまうため、着座のしやすさのためにあえて通路を段上げするケースが出てきました。また、当初からすべて前向き座席だったいすゞの車両は、着座のしやすさを考慮してもともと通路部分の傾斜がやや高めでした。この点を敬遠し、北海道のバス会社では「床面が傾斜していると、靴の裏に雪が付いている場合に滑って転びやすいというので段上げにした例もあります」と鎌田氏はいいます。

そして、フルフラット型は通路の狭さもネックでした。「タイヤハウスがあるので、人が立っていると横を通れないぐらいの幅しか確保できないんです」。従来型のバスは、「座席があったとしてもその下にスペースがあるので足が入り、人が立っていても横を通過できる」のに対し、座席自体も少なく、立ち席スペースも確保しにくい初期のノンステップバスは、決して手放しで喜ばれるバスではなかったようです。

●技術的には「意欲作」だったが……

ドロップアクスルを採用し、後部まで段差のない通路を実現した初期の国産ノンステップバスは、実は床の高さ自体も現在のノンステップバスより数cm低く、乗降口付近は30cm、中央部で34cmを実現していました。現在、東京都交通局が運行しているフルフラットバスは乗降口付近が36cm、中央部が40cmであるのを考えると、その先進性がうかがえます。ただ、メーカー各社の「意欲作」ではあったものの、高価で混雑時には向かないなど、デメリットが目立つのも実情でした。

「もともとフルフラット型は、最後部にも扉を付けてすべての扉から乗降できるという使い方であればすごく効果を出せるし、後ろ向きの座席を許容する環境であれば使い勝手は増すと思います。ただ、日本の都市で多くの人が乗るような使い方を考えると、フルフラットは適さなかったということでしょう」。鎌田氏はこう話します。

一方、ノンステップバス自体はその後普及が進み、今では当たり前の存在になっています。最終回となる次回は、普及に向けて大きな推進力となった「標準化」の流れをご紹介します。

※文・図:小佐野カゲトシ

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