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奈良交通の大型電気バスを活用した新たな観光ルートの実証運行[後編]

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奈良交通は奈良県を中心に路線バス網を展開しており、一部の路線は京都府、大阪府、和歌山県にもおよんでいます。また、路線バスのほか、観光バスや奈良県と各都市を結ぶ高速バスなども運行しています。
同社では2021年12月に奈良県内初となる大型電気バスを使った新たな観光ルートの実証運行を行いました。
今回はその実証運行をテーマに概要を前編で紹介し、後編で車両を紹介します。

各地で実績を積み重ね始めたアルファバスECity L10

今回、奈良交通の実証運行で使用された大型電気バスは、中華人民共和国のアルファバスが製造・販売する “ ECity L10 ” (イーシティ・エル・テン)です。この車両は、アルファバス、日本の電子デバイス・コンポーネントの総合商社「エクセル」、二次架装メーカーの「ヴィ・クルー」が2019年12月に共同設立した「アルファバスジャパン」が日本国内で扱っています。
2021年12月20日現在、アルファバスジャパンで扱っている電気バスはECity L10のみですが、すでに電力会社やバス事業者などに納入しています。導入例としては、四国電力坂出(さかいで)発電所の充放電遠隔制御技術実証実験を兼ねた送迎バスや栃木県の奥日光自然博物館の低公害バス「しらかば号」、山梨交通の路線バスが挙げられ、注目されています。

今回の奈良交通での実証運行にあたっては、エクセルが所有するアルファバスECity L10のキャラバン車が大宮ナンバーのまま使用され、カラーリングや標記などは特に変更されませんでした。

ECity L10は、日本のバス事業者の意見を反映された車内仕様を持ち、日産自動車の電気自動車リーフと同様のバッテリーを使用しており、信頼性があることや、災害対策の非常用電源活用の検討ができることなどが、今回の実証運行に使われる大きな理由になったとのことで、大型電気バスのキャラバン車を保有しているメーカーがアルファバスジャパン以外にないことも決め手になったと考えられます。

大きく取られた側窓が洗練された印象の車体外観

アルファバスECity L10は、全長10.48m、ホイールベース(前後の軸距)5.5mで、全幅2.48m、全高3.26mになります。

フロントオーバーハング(車体前端から前輪中心までの距離)は2.3m、リアオーバーハング(車体後端から後輪中心までの距離)は2.68mで、国産大型ノンステップバスと比較すると、リアオーバーハングが少し短い印象を受けます。

車体もアルファバス製で、前中扉構造のノンステップ車。前扉、中扉ともに包み込むように開閉するグライドスライドドアを採用しています。側窓は窓廻りをブラックアウトし、車体に対して大きなガラス面積を取るような処理が行われており、上段引き違い・下段固定の逆T窓となっています。

今回、奈良交通の実証運行で使用された車両はメーカーのキャラバン車で、もともと路線バスでの使用を想定し、前面、後面、左側面にはLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式の行先表示器を装備していましたが、実証運行時には前面と後面の行先表示器はメーカー表示のままで、前面バスマスク(ゼッケン)と側面行先表示器窓部分に貼られたステッカーにより、ルートを表示していました。

リアウィンドウがない車体構造で、後面下方にあるリッド(点検ぶた)内にはバッテリーやインバーター、電子制御ユニットが収められています。
アクスル(車軸廻り)は、フロント、リアともにドイツのZF製。電子制御エアサスペンション(空気ばね)であるECAS(Electronically Controlled Air Suspension)は、商用車の安全システムや制御システムのサプライヤーである WABCO(ワブコ)製です。

気になる屋根上機器やモーター、充電時間、走行距離は?

屋根上前方にもバッテリーを装備してしますが、アルファバスECity L10に装備されているバッテリーは日本製で、バッテリーの劣化を抑えるための液冷の温度管理システムを採用していることが大きな特徴です。屋根上はバッテリーのほかに、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、オゾン発生器付きの外気導入型冷暖房エアコンが標準装備されています。屋根上のバッテリーやエアコンは、一体型のカバーでおおわれており、車体全体を見るとハイルーフ車のような出(い)で立ちが洗練された印象を与えています。

電気自動車であるためモーターで走行しますが、1基のみの搭載で、最高出力152kw/700rpm、定格出力100kw、最大トルク2,700Nm/200~400rpmとなるTQSL100A型モーターです。
気になる充電時間と走行距離ですが、CHAdeMO(チャデモ)2.0規格に準拠した充電用コネクターを右側面最後部に装備しており、急速充電を行うことができます。フル充電にするためには、充電器の出力によるものの50kwタイプで、3.5時間から4時間ほどを想定しており、フル充電での走行距離は約240kmです。
また、機器の制約などはありますが、ECity L10には、電気自動車から建物に電力を供給できる “ V2H (Vehicle to Home)” の機能を備えています。災害時の非常用電源として、外付けの100vコンセントで、最大2,800wの外部給電も可能なことが大きな特徴です。

なお、奈良交通では、営業所に電気バスの充電施設がないため、今回の実証運行ではアルファバスジャパンが用意した、いすゞエルフ小型パネルバンの荷台に充電装置を備え付けた電源車が使用されました。

日本の大手バス事業者監修の車内仕様

車内は前中扉間がノンステップエリアで、中扉以降が段上げ構造となっており、全て前向き座席で構成されています。
実証運行に使用されたキャラバン車は乗車定員76人で、ノンステップエリアの扉側が1人掛け座席2脚となるタイプです。

運転席側は右前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)に1人掛け座席が1脚設けられるほか、4脚の座席で構成されますが、中扉付近の2脚ははね上げ式で、はね上げると1台分の車イススペースとなります。中扉以降は2人掛け座席となり、扉側、運転側ともに4脚ずつ配置されます。

全席にスマートフォンなどが充電可能なUSB(Universal Serial Bus:データ転送経路)ポートを付けています。

アルファバスECity L10の車内仕様については、日本の大手バス事業者からの設計監修を受け、日本仕様に仕上げていることが特徴で、バリアフリー法の要件を満たしています。

運転席は操作性に優れたラウンドフォルムコックピットとなっており、メータークラスター中央に大型液晶パネルを備えています。ウィンカーレバーは国産バスと同様、ステアリングホイール(ハンドル)右側にあります。

奈良交通では大型電気バスを運行するのは今回の実証運行が初めてのこと。実証運行を行うため、アルファバスECity L10のキャラバン車は、普段留め置かれている埼玉県から船便なども使って遠路はるばる奈良県へと来て、2021年11月24日に奈良交通が引き受けしました。到着後すぐに乗務員の教習・訓練を行う奈良交通研修センターの担当者が運転や操作方法を習得。それを今回の実証運行を担当した奈良営業所の指導運転者に教える形で運転・操作を習熟していったとのことでした。実証運行では6人の指導運転者が交代で運行にあたりました。

YouTubeの小誌公式チャンネル「バスグラフィックTV」でも、12月下旬に奈良交通の実証運行の概要と大型電気バスについて、2本の動画番組で紹介予定です。ぜひ、ご覧下さい!
https://www.youtube.com/channel/UC-74wcE1sa1Subi_jbK0csg/featured

※ 協 力 : 奈良交通株式会社
※ 写真・文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 本項に掲載の写真は報道公開および、記事掲載を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。掲載車両の営業所・車庫内での撮影要望や運行状況などのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。

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