優良バス会社が集結!バス会社への就職を加速させる合同企業説明会『バスギアエキスポ』 優良バス会社が集結!バス会社への就職を加速させる合同企業説明会『バスギアエキスポ』 優良バス会社が集結!バス会社への就職を加速させる合同企業説明会『バスギアエキスポ』

名車いすゞキュービックの初期型が青森県の南部バスに生きていた! [後編]

このエントリーをはてなブックマークに追加
1980年代前半に日本の路線バスの車体構造とデザインは大きく変わり、それが現在へと続く礎(いしずえ)になっていると言えます。
それまでは卵の外殻に例えられる構造のモノコックボディであったところが、鋼管の骨組みに鋼板を貼り合わせた骨格構造のスケルトンボディとなり、路線バスのデザインも直線基調で窓が大きく取られるなど様変わりしました。
当時、各メーカーからこぞって斬新とも思える外観の路線バスが登場し、来るべき21世紀に思いをはせたことも遠い昔のこととなりましたが、その中でもいすゞ自動車が1984年から製造・販売した大型路線バス「キュービック」はピカイチな存在でした。
そんないすゞキュービックの製造・販売開始時に限りなく近い、1985年7月に初度登録された車両が岩手県北(けんぽく)自動車南部支社で2023年の今でも活躍していると聞き、現地を訪れてみました。
記事後編の今回は車内の様子をご覧に入れます。

斬新だったいすゞキュービック前期型の車内へ

それでは斬新だったいすゞキュービック前期型の車内へ入ってみることにしましょう。
南部バスでの営業運行では中扉から乗車し、前扉から降車する中乗り・前降り方式ですが、今回は本記事のため特別に前扉から乗車してみます。
モノコックボディの路線バスの前扉と比較し、幅広で乗り降りしやすいいすゞキュービックの前扉は特長の一つです。
ツーステップ車であるため、扉が開くとステップが現れますが、段差を極力抑えています。

車内前方から後方への眺め。
前向き座席のみで構成された座席レイアウトで、おおよそ車内前方から中ほどにかけては1人掛け、中扉以降は最後部座席手前まで2人掛けとなっています。
ツーステップ車のため出入口にステップがあるものの、車内は前方から最後部座席手前までタイヤハウス(タイヤの収納部分)を除いて段差はなく、基本的に床面はフラットな状態であることも、今となっては懐かしい雰囲気です。

運転席側に並んだ座席の様子。最前部の座席下には右前輪のタイヤハウスがありますが、ツーステップ車で床面が高い位置にあることから、タイヤハウスの張り出しも大きくはありません。

そして何よりも味わい深いのが木の床であること。
1980年代半ば以降になると、樹脂系素材のロンリウムなどの床上張りが施工された路線バスが大きく数を増やしたため、いすゞキュービックの中でも木床の車両は少数派と言え、そのような車両が2023年の現在も元気に活躍していることは注目に値すると言えるでしょう。

車内後方の様子は?

中扉以降は最後部座席手前まで2人掛けの前向き座席が運転席側、扉側ともに4脚ずつ並んでいます。
中乗り・前降り方式であるため、中扉直後の仕切りには整理券発行器と、現代ならではの装備とも言えるICカードリーダーを設けています。

中扉直後は仕切りパイプに囲まれたスペースがありますが、これは車掌台の名残(なご)りと言えるものです。
1980年代半ばになると全国各地の路線バスは、地方の一部路線や狭隘路(きょうあいろ)を運行する路線などを除き、ワンマン運行がほとんどとなっていましたが、ワンマン運行を基本としている事業者の中でも、車両の仕様として車掌台の名残りのスペースと、「車両窓」と呼ばれる中扉直後の引き違い窓を装備している車両を導入し続けているケースが散見されました。

ここで座席をクローズアップしてみましょう。
車内前方にある1人掛け前向き座席は全て紺(こん)色のモケットで、シートバックを支持するパイプと手スリが連続した構造になっていることが特徴です。

車内後方にある2人掛け前向き座席も全て紺色のモケットですが、座面もシートバックも1人分ずつ独立した構造になっています。
シートバックを支持するパイプと手スリが連続した作りになっていることは1人掛けと同じです。
2人掛けの座席の前方から2脚目は、運転席側、扉側ともシートバック上部の手スリにグリップを取り付けています。

最後部座席は5人掛けで、特に座面を仕切るひじ掛けなどは備え付けていません。
モケットはこちらも紺色となっています。
リアウィンドウ上部には後面行先表示器を設けています。

車内後方から前方を眺めてみると…

最後部座席から車内前方への眺め。
いすゞキュービック前期型のポイントの一つである天地寸法の大きな側窓のおかげで車内は明るく、天井も高いため非常に快適な雰囲気。
ツーステップ車のため、乗客のアイポイントが高くなり眺望も良いことから、それまでのモノコックボディの路線バスにはなかった明快さと心地良さがあります。

車内最前部にかけての眺め。
運転席直後には仕切りポールがあり、案内などが掲出されています。
天井には冷房装置のグリルがあることが分かります。
フロントウィンドウ直上には近年の主流であるモニター方式の運賃表示器を備え付けていますが、35年以上前の車内意匠(いしょう)にも違和感なく溶け込んでいます。

個々の装備にも感じる時代

個々の装備にも現在の路線バスにはない良さを感じます。
天井には通風口を4カ所設けており、手動でレバーを動かして通風機器のフタを開閉する仕組みになっています。

また、同様に天井にはスピーカーを4カ所設けています。
ネプチューン(現・レゾナント・システムズ)製のもので、スピーカー中央部分には円を描くように社名を記載しています。

ピラー(窓柱)に取り付けられたメモリーブザー(降車ボタン)の一つです。
現在の路線バスが取り付けているものとは異なるデザインで、透明のカバーで全体が覆われており、真ん中に四角いボタンがあるタイプです。
押すとブザー全体が光りますが、透明のカバーはかなり年季が入っていることが分かります。

運転席も現在の路線バスにはない良さが…

最後に運転席廻りを見てみることにします。
メータークラスター(計器盤)は切り立ったようなデザインで、メーター類もアナログですが、機能的なデザインとなっています。
変速機は5速MT(Manual Transmission:手動変速機)で、シフトノブの長いロッドシフトです。

運転席脇のスイッチボックス。
上面には扉の開閉レバーなどがありますが、側面には暖房予熱器であるプレヒーターのスイッチをはじめ、行先表示器の方向幕自動巻取機のスイッチ、右左折警報器の切り換えや音量スイッチ、ヒーターのスイッチやダイヤルなどがあります。
なお、行先表示器は近年、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式に改造していることから、方向幕自動巻取機のスイッチは使用していない可能性があります。

前面は大きな1枚ガラスのフロントウィンドウとともに、左右に三角形をイメージさせる「OKウィンドウ」と呼ばれる視認窓を設けているため、死角を極力なくしている印象です。
乗客の立場からすると眺望が良く、まさに、いすゞキュービック開発時の目標の一つである「乗ってみたくなるバス」を具現化していると言えます。

左コーナー部分に縦長のOKウィンドウを設けていることから、ダッシュボードを切り欠いて、前扉のドアエンジンをうまく収めていることが分かります。
他の車種にはない、いすゞキュービックならではの構造と言えるでしょう。

ドアエンジン付近に貼られている架装ボディメーカーのプレート。
川重車体工業製で、昭和60年6月に製造したことを示す「60-6」の文字が打刻されています。
京浜急行電鉄(現・京急バス)が導入し、1997年に南部バスへ移籍して、今日まで38年。
当時、時代の先を行き新型路線バスの代名詞にも感じた、いすゞキュービック前期型もすっかり歳を取ってしまいましたが、南部バスの努力によって、このように美しい状態を保って営業運行を続けていることはうれしい限りです。
岩手県北自動車では1968年式のボンネットバスが現存しており、南部支社でも今となっては珍しくなったいすゞキュービック前期型をできる限りきれいな状態で存続させていきたいそうですが、現状は保存車としては考えておらず、現役で走り続けれるところまでは頑張りたいとのことで、特に運行路線は決めずに使用し続けています。
事業者に敬意を払(はら)いつつ、可能な限り永く活躍することを願ってやみません。

※ 協力 : 岩手県北自動車株式会社南部支社
※ 写真 : 伊藤岳志
※ 文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 参照 : 山口貢三「いすゞ大型路線バス『キュービック』開発記」 バスグラフィックVol.9
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。
記事中の車両の営業所・車庫内での撮影要望を事業者へ行わないようお願い申し上げます。

この記事をシェアしよう!

このエントリーをはてなブックマークに追加
  • FaceBookのフォローは2018年2月で廃止となりました。
    フォローの代わりにぜひ「いいね!」をご活用下さい。