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帰ってきた西武バスの3扉車 [前編]

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2022年10月に北海道のバス事業者、旭川電気軌道が、半世紀近く廃車体として半ば野ざらし状態にあった約60年前製造の前輪2軸大型路線バスを完全修繕して復活させ、非常に大きな話題となりました。
これをキッカケに古いバスの復活や保存がにわかに注目を集めてきたような感も受けます。
今回、紹介する西武バスの3扉車もいったん引退し、別の事業者へ移籍して活躍した後、西武バスへ里帰りし、完全修繕されたうえで復活した車両です。
その復活劇の概要と車両の詳細を前編と後編の記事に分けて紹介します。

西武バスが3扉車を導入した時期と理由は?

西武バスは東京都西部、埼玉県南西部を中心に路線バス網を展開している事業者です。
同社には東京都練馬区や杉並区、武蔵野市などを中心に走る路線を管轄する上石神井(かみしゃくじい)営業所と練馬営業所があります。
両営業所では、JR中央線の荻窪(おぎくぼ)駅や吉祥寺(きちじょうじ)駅に発着する路線をはじめ、西武新宿線の駅を経由して西武池袋線の石神井公園駅、大泉学園(おおいずみがくえん)駅に発着する路線、東武東上(とうぶとうじょう)線の成増(なります)駅に発着する路線といった、高頻度・大量輸送が必要な路線を多数かかえています。

そこで、1991年から95年までの間と1997・98年に3扉車の大型路線バスを大量に導入しました。
3扉車は、車体左側面の前方、中ほど、後方の3カ所に乗降用の扉を設けている車両のことで、現在の一般的な大型路線バスの乗降用の扉が、車体左側面の前方と中ほどの2か所であることとは大きく様相を異(こと)にします。
終点での一斉降車などが可能な3扉車は、高頻度・大量輸送が必要な路線で機動力を発揮(はっき)できるため導入されたと言われています。
西武バスと営業エリアが近接し、一部では重なっている関東バスでは、1960年代から3扉大型路線バスを導入し、長期間活躍させ続けたことから、同社路線バスの代名詞的な存在だったとも言えますが、それと比較すると、西武バスは比較的後の方に3扉車を導入したことが特徴です。

復活した3扉車の来歴

西武バスの3扉車は全て日産ディーゼル工業製で、ボディは富士重工業(現・スバル)製を架装していました。
ヘッドライトやフォグランプをフロントバンパーにビルトインした前面デザインとクリーンな直線基調のフォルムが特徴の富士重工業R17型E、通称「7E」ボディです。
ただし、全長10.2m・ホイールベース(前後の軸距)4.72mの短尺(たんじゃく)車と全長10.7m・ホイールベース5.24mの標準尺車の2種類が存在していました。
実は2009年6月29日発行の『バスグラフィック』Vol.3の特集内で、当時引退が進んでいた西武バスの3扉車の短尺車と標準尺車の両方を取り上げた経緯もあります。
上記3枚の写真は『バスグラフィック』Vol.3の特集記事に掲載するため、2009年4月に練馬営業所で撮影した1998年式の標準尺3扉車、日産ディーゼルKC-UA460LSNの社番A8-568(練馬22か7339)ですが、西武バスの標準尺3扉車の中で、この型式は1台のみの存在でした。

1991年から95年までの間に上石神井営業所と練馬営業所が導入した3扉車は合計60台で、全て標準尺車でした。
1996年は3扉車の導入がありませんでしたが、1997・98年に合計25台の3扉車の導入があり、上石神井営業所では24台の短尺車を導入し、練馬営業所では上記の標準尺車を1台導入して、西武バスへの3扉車導入は終了しました。
1997年以降、上石神井営業所へ短尺3扉車を導入するようになったのは、旧・田無(たなし)営業所から保谷(ほうや)線の路線移管があったためです。
旧・田無営業所の車両は全て短尺車だったため、路線移管後は標準尺車と短尺車の両方の予備車を置かなければならなくなることから、上石神井営業所への新車導入にあたって、どこの路線でも使用できるような短尺3扉車を導入したとのことです。
今回取り上げる「復活した3扉車」は、1997年に上石神井営業所へ導入された短尺車で、型式はKC-UA460HSNです。
当時の社番はA7-403で、登録ナンバーは「練馬22か7071」となります。
2005年に高野台営業所へ転属して活躍の後、2009年に引退。
同年、滋賀県南部・東部を中心に路線網を展開する近江(おうみ)鉄道へ移籍し、登録ナンバー「滋賀200か・736」となり、大津営業所で2022年まで活躍し、同社からも引退しました。
そして、西武バスへの里帰りと復活計画が実行に移されたのです。

なぜ、3扉車を復活させたのか?

近江鉄道で活躍していた元・西武バスの3扉車が今回、古巣(ふるす)に帰り、完全修繕のうえ復活することになった理由は、2022年の西武バス創立90周年記念企画の一環として、2020年に3扉車復活プロジェクトが立ち上がったからです。
なぜ、復活させる車両を3扉車としたのでしょうか?
同社広報部門に尋ねてみたところ、一時代を代表するバスで、西武バスでも練馬・上石神井で多数保有し、高頻度・大量輸送に貢献し、同社の歴史を語るうえで外せない存在かつ特異な外観を持つという点で、同社のレガシーとして保存するにふさわしい存在であると判断したためという答えが返ってきました。
また、創立90周年という大きな節目にふさわしい車両を選択することで、これまでとこれからの西武バスファンへの感謝を込めた取り組みとして、プロジェクトを進めたとのことでした。

復活へのプロセスは?

西武バスの公式ホームページには3扉車の特設ページがあり、来歴が分かりやすく載っていますが、同社広報部門から聞いたことも含めて復活へのプロセスをここで簡単に説明していきましょう。
今回復活した西武バスの3扉車は、2022年7月に移籍先の近江鉄道を引退。

8月8日に同社大津営業所から山陽自動車道など高速道路を通って、徳島県の徳島港フェリーターミナルへ自走で回送し、8月10日にカーフェリーによって東京港フェリーターミナルまで運びました。
東京港フェリーターミナルからも都内を経由し、埼玉県所沢市にある西武バス本社まで自走で回送。

そして、8月15日から9月7日にかけて、車検更新へ向け西武バス飯能営業所内にある整備工場で点検整備を行い、9月8日には国土交通省関東運輸局の埼玉運輸支局所沢自動車検査登録事務所にて、貸切車として新たな登録ナンバー「所沢230あ7071」を交付されました。

希望登録ナンバーの「7071」は、1997年に上石神井営業所で新車登録した時の「練馬22か7071」の登録ナンバーをオマージュしています。

さらに、9月14日に東京港フェリーターミナルへ回送され、再びカーフェリーに乗船します。
翌15日にかけて福岡県北九州市にある新門司(しんもじ)のフェリーターミナルへ航送された後、同市内の西鉄車体技術小倉工場へピットインし、9月16日から11月28日までの約3カ月間、大規模な車体修繕を行いました。

西鉄車体技術はバスの改造や修理、リニューアルなどを行うことができる西日本鉄道(西鉄)グループの企業ですが、同じ西鉄グループの企業で、2010年までバスボディの製造・架装を行っていた西日本車体工業、通称「西工(にしこう)」の技術やノウハウを継承しています。
「西工(にしこう)」製ボディを架装した路線バスは西武バスでも数多く採用されていたため、製造・架装が終了してから20年が経過し、サポートを受けにくい富士重工業の車体を架装した3扉車でも完全修繕を行えると、同社が選択されたとのことです。

完全修繕にあたっては、シャーシやボディの傷んだ箇所の修繕や座席をいったん全て撤去したうえでの床上張りの張り直しなど、大規模な修繕が行われました。
また、近江鉄道仕様から当時の西武バスの仕様へ戻す復元工事も行われました。

まず、行先表示器はLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式から、現在では見る機会が少なくなった方向幕式へと戻されました。
そして、中・後乗りで前降りの近江鉄道ならではの装備を、前乗りで中・後降りの西武バスの仕様にする工事も行われました。
中扉直後にあった車外スピーカーを前扉直後へ移設したほか、中・後扉脇近くにあったインターホンマイクや車外照射灯の撤去、前輪ホイールアーチ(タイヤ部分のボディの切り欠き)上の運賃表示板受けの復活などが挙げられます。

このようにして、車体をていねいに修繕し、外観塗装や内装を元の西武バスのものへ戻したうえ、1997年に上石神井営業所へ導入された当時の仕様へ極力近付けるという作業も同時に行われて、見事に往年の姿がよみがえったのです。
西武バスの車両担当によると、「今となっては当時の写真資料と社員の記憶のみしかなかったため、当時の現車合わせの再現に最も苦労しました」とのことです。

完全復活をとげた3扉車は、11月28日から30日にかけてカーフェリーによって帰京。
当時のいで立ちになって里帰りを果たしたのです。

後編では完全復活した3扉車の車内外をクローズアップします

※ 協力 : 西武バス株式会社
※ 写真(特記以外) : 伊藤岳志
※ 文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。
記事中の車両の営業所・車庫内での撮影要望や使用状況のお問い合わせなどを事業者へ行わないようお願い申し上げます。

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