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帰ってきた西武バスの3扉車 [後編]

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西武バスは東京都西部、埼玉県南西部を中心に路線バス網を展開している事業者です。
同社では東京都練馬区や杉並区、武蔵野市などを中心に走る路線を管轄する上石神井(かみしゃくじい)営業所や練馬営業所に、1991年から98年までの間に3扉大型路線バスを大量に導入し、ラッシュ輸送に活躍させていましたが、経年により2010年に全車引退。
それから10年以上の時を経て、2020年に西武バス創立90周年記念企画の一環として3扉車復活プロジェクトが立ち上がり、滋賀県の近江(おうみ)鉄道に移籍し、活躍していた車両を里帰りさせる形で完全修繕。
2022年11月に西武バス時代の姿に戻って復活をとげたのです。
後編記事の今回は復活した西武バス3扉車の内外装をクローズアップします。

復活した3扉車の概要

復活をとげた西武バス3扉車は1997年式の日産ディーゼルKC-UA460HSNです。
登録ナンバーは「所沢230あ7071」となりますが、この登録ナンバーは当初、上石神井営業所に導入した時の「練馬22か7071」をオマージュしたものです。

西武バスの固有番号となる社番は1736ですが、1997年導入時の社番A7-403とは異なるため、当時の外観の印象を損ねないよう、標記はリアガラスの左端に標記しているのみです。
導入当初から路線バスとして活躍し、いったん引退して近江鉄道へ移籍後も路線バスとして活躍しましたが、今回西武バスで復活するにあたっては貸切バスとして活躍することになり、貸切バスツアーである「西武グリーンツアー」のバス愛好家向けツアーなどで使用しています。

車体は富士重工業(現・スバル)製の通称「7E」ボディを架装しており、前扉が折戸、中扉と後扉が引戸の3扉車で、側窓は銀色の下段上昇・上段下降式のサッシ窓(2段窓)となる大型ツーステップ車です。
行先表示器は1997年の導入当時、方向幕式でしたが、西武バスの路線バスとしての活躍時代後半にLED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)による電光式へ改造されました。
近江鉄道へ移籍後も行先表示器は電光式でしたが、このたびの西武バスへの里帰り、復活に際し当初の方向幕式へと戻されました。
車検証上のデータなどによると、全長10.2m、全幅2.49m、全高3.12m、ホイールベース(前後の軸距)4.72mで、乗車定員は67人となっています。

エンジンルームは車体最後部にあり、最高出力235馬力、総排気量13,337ccの直列6気筒ディーセルエンジンPG6型を搭載しています。

外観の気になるポイントあれこれ

復活をとげた西武バス3扉車外観の細部でポイントと思われるところを見てみます。
2010年に近江鉄道へ移籍した際、同社が中・後乗りで前降り方式であったことから、中扉と後扉の脇にそれぞれインターホンマイクを設け、もともと前扉脇にあった車外スピーカーも中扉直後に移設しましたが、西武バスへ里帰りするにあたり、それらはきれいに撤去し、導入当初の仕様に戻りました。

同様に、近江鉄道移籍後に中扉と後扉直上に取り付けられた車外照射灯も撤去し、西武バスが当初導入した姿へと戻りました。

一方、左前輪ホイールアーチ(タイヤ部分のボディの切り欠き)上には車外スピーカーと運賃表示板受けがありますが、これらは近江鉄道に移籍してからいったん撤去したものの、西武バスへの里帰りに際して復活した装備です。
今回復活をとげた3扉車は、当初西武バス上石神井営業所へ導入され、前乗りで中・後降り方式の路線に使用したことから、これらはその当時を物語る装備だとも言えます。

前扉下部に目を転じると、貸切バスとして復活したため、独特な書体で「貸切」と書かれた業態標記が見られます。
床下には前扉の開閉と連動して点灯・消灯する車外照射灯が備え付けられていますが、特徴的な装備の一つだと言えるでしょう。

現在、製造・販売されている大型路線バスはエアサスペンション(空気ばね)が標準的ですが、3扉車が登場した1990年代に製造・販売されていた大型路線バスはリーフサスペンション(板ばね)が標準的でした。
これは後輪のリーフサスペンションです。
当時まで当たり前だった装備も、現在の視点から見ると珍しく感じる装備へと変化しているのは、やはりそれだけの年月が流れたという証(あかし)でもあります。

右側面後方にある非常扉のドアコックです。
透明部品にドアコックの定位置を示すライトグリーンの線画が描かれていますが、近江鉄道移籍後に描かれたもので、近江鉄道の路線バスの仕様の一つです。

3扉車の車内に入ってみよう!

いよいよ、車内に入ってみることにしましょう!
前扉から乗車して見た車内前方から後方への眺めですが、中扉直前の優先席が横向き座席であることを除き、前向き座席で構成していることが分かります。
ツーステップ車で出入口にステップがあるため、ステップを上がると最後部座席までは基本的に段差のない通路となっています。

運転席側の前向き座席は、最後部座席手前まで全て2人掛けとなっていて、壮観(そうかん)です。
扉側も中扉と後扉の間も同様に、2人掛けの前向き座席となっています。
座席モケットはよく見るとジグザグ状のパターンの模様が織り込まれていますが、全体的には青色系統でまとめています。

前中扉間は前向き座席と横向き座席で構成しています。
前扉直後から2席は1人掛けの前向き座席で、その後ろは2人掛けの横向き座席となり、モケットを赤色系統にした優先席です。

実はこれまで紹介してきた座席レイアウトは、西武バスが当初導入した時のものとは異なっています。
当初はラッシュ対策を考え、前向き座席は1人掛けが中心で通路が広く、立席(たちせき)スペースを多く取っていました。
復活をとげた3扉車の座席レイアウトは、近江鉄道に移籍してから座席数を増やすため2人掛け前向き座席に変更したもののようです。
上記写真は『バスグラフィック』Vol.3の特集記事に掲載するため、2009年4月に上石神井営業所で撮影した1998年式の同型3扉車、社番A8-565(練馬22か7341)の車内です。
前向き座席は1人掛けと2人掛けの組み合わせで構成していることが分かります。

3扉車たる所以(ゆえん)の後扉と中扉を車内側から見た様子です。
後扉は2段目のステップが斜めに切り欠かれているところが中扉と大きく異なります。
後扉は後方、中扉は前方の戸袋に引き込まれて開きます。
両者とも、2段目ステップ周辺にすべり止めの縞鋼板(しまこうはん)を貼っていますが、現在のノンステップ路線バスを見慣れた目からすると、少々物々しくも感じます。

最後部座席は5人掛けとなっています。
足もとは通路より1段高くなっており、後扉との間には仕切りを設けています。
リアウィンドウ上方には、方向幕式の後面行先表示器を備え付けています。
天地方向の手スリ(にぎり棒)は茶褐色(ちゃかっしょく)のラバー系素材でコーティングしており、すべりにくくなっていますが、天地方向の手スリは扉側にしか設けていないことが特徴的です。

最後部座席から車内前方への眺め。
ズラリと並んだ2人掛け前向き座席シートバック背面には、2つずつグリップを取り付けているとともに、貸切車であることから、座席番号を記した紙を貼っていることが分かります。
今となっては、こうした整然とした車内レイアウトが郷愁(きょうしゅう)を誘(さそ)います。

運転席ほか、見ておきたい車内のポイントは?

運転席の様子。
メータークラスター(計器盤)は切り立った印象のフォルムで、メータ類も全てアナログですが、機能美にあふれています。
ステアリングホイール(ハンドル)中央には“NISSAN DIESEL”(日産ディーゼル:現・UDトラックス)のロゴが入っています。
変速機は5速MT(Manual Transmission:手動変速機)で、シフトノブの長いロッドシフトです。
「棒ギア」などとも通称しますが、1990年代後半、すでにシフトノブが短く乗用車感覚で操作ができるフィンガーシフトが普及していたものの、西武バスの3扉車は基本的にはロッドシフトを採用していました。

運転席のメータークラスター脇には3つのパイロットランプがあります。
緑色は中・後扉のステップに立った乗客を検知センサーの光電管(こうでんかん)用で、検知すると点灯します。
赤色は中扉、白色は後扉が開いている状態を示すもので、両者とも開いた状態で点灯します。

光電管の一例で、中扉ステップ脇の後方に備え付けてあるもので、中心が光った丸い部品が2つありますが、対(つい)になるよう中扉ステップ脇の前方にも同じ形状のものが2つあります。
もちろん、光電管は後扉のステップ脇にも備え付けてあります。

車内後方の天井には通風器を設けており、レバーを上下することでフタを開閉し、新鮮な外気を取り入れることができます。
冷房装置はもちろんのこと、前方にはファンも装備していますが、西武バスへ1990年代に導入した路線バスの仕様の一つで、このように冷房装置とともにファンと通風器の両方を備え付けている車両を多く見ることができました。

中・後扉脇には開閉時に鳴る、扉開閉予告ブザーを装備していますが、西武バスが当初導入した時に装備していた日工電気製のものを備え付けています。
同様に、メモリーブザー(降車ボタン)も、導入当時に装備していたオージ製のものを取り付けています。

側窓は「サッシ窓」などと通称される下段上昇・上段下降の2段窓です。
1990年代まで製造・販売された路線バスでは、極めて当たり前の仕様でしたが、現在は上段引き違い・下段固定の逆T窓を標準仕様としているケースがほとんどです。
サッシ窓は、着席した位置でも車外からすずしい風を取り込めることがメリットでした。

完全復活した西武バスの3扉車は、当初導入から約26年が経過しているわけですが、改めて見てみるとこの四半世紀で路線バスのスタイルや仕様、装備が大きく変わったことに気が付きます。
西武バスの広報担当によると、「晴れて復活を果たした3扉車を前に、若手社員はそもそもその姿を目にするのが初めてであったことから、物珍しさをもって見ていた一方、ベテランの社員やバス好きな社員は当時を懐かしんでいた」とのことでした。
今後も、「西武グリーンツアー」などで運行し、実際に乗車できる機会もありそうなので、ぜひ、ツアーに参加し、完全復活を果たした西武バスの3扉車に会いに行ってみてはいかがでしょうか。

※ 協力 : 西武バス株式会社
※ 写真 : 伊藤岳志(特記以外)
※ 文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両の営業所・車庫内での撮影要望を事業者へ行わないようお願い申し上げます。

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