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人とシステムの最適な協調領域を模索! 神奈川中央交通の自動運転バス実証実験[後編]

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神奈川中央交通は神奈川県の大部分と東京都多摩地区などに一般路線バス網を展開する事業者で「神奈中(かなちゅう)」の愛称で親しまれています。
同社では近年、実証実験を中心に自動運転バスを運行してきており、2021年2月9日から3月5日までの間に行われた神奈川県横浜市栄区での中型路線バスによる自動運転の実証実験は、動画投稿サイトYouTubeの小誌公式チャンネル「バスグラフィックTV」でも紹介しました。
このたび、2024年1月22日から2月2日までの間、神奈川県平塚市にて大型路線バスによる自動運転の実証実験を行ったことから、前編と後編記事に分けて紹介していますが、後編では車両を紹介します。

今回の自動運転バスの概要

前編記事で概要を紹介しましたが、今回の実証実験はJR東海道本線の平塚駅南口を起終点にして、「平15」系統の約4.3kmを、いすゞ自動車の大型ノンステップ路線バス「エルガ」をベースにした自動運転バスで、午前11時台から午後5時台までの間に6便運行するパターンでした。

この実証実験は、平塚市をはじめとして神奈中、いすゞ自動車、三菱商事、アイサンテクノロジー、A-Drive(エードライブ)の6者で連携協定締結を行っています。
三菱商事が参画しておりますが、いすゞ車を使用した福岡空港での西日本鉄道(西鉄)の自動運転バス実証実験にも関わった実績があり、今回もいすゞ車での実証実験となりました。
自動運転の技術面では測量・土木関連ソフトウェア開発企業「アイサンテクノロジー」、自動運転ワンストップサービス提供事業を行うアイサンと三菱商事の合弁企業「A-Drive」が関わっています。
システム自体は自動運転システムのソフトウェア開発を行う名古屋大学発のベンチャー企業「ティアフォー」によるものです。

今回採用した自動運転システムは、3Dマップを活用したスキャンマッチングにおいて自己位置を推定する形で、GPS(Global Position System:人工衛星による現在位置測位システム)を利用したシステムと比較すると、自己位置精度の安定化に貢献しています。
そのことから、GPS精度の悪化に備えた路面への磁気マーカーの埋め込みといった大掛かりなインフラ側の工事は今回の実証実験では行っていないことも特徴です。

新カラーデザインのロング車で目をひく存在

今回の実証実験で使用した自動運転バスは、いすゞエルガ2RG-LV290Q3改で、全長が11.13m、ホイールベース(前後の軸距)が6mとなります。
一般的ないすゞエルガ大型ノンステップ路線バスは、2017年からすでに神奈中で導入されており、藤沢、茅ヶ崎(ちがさき)、中山、綾瀬(あやせ)などの営業所の管轄路線で活躍中です。

ただし、それらは全長10.43m、ホイールベース5.3mと今回の自動運転バスよりも短いショート車で、逆に自動運転バスはロング車であることから、目立つ存在でした。
また、2023年10月に74年ぶりに神奈中の路線バス新塗装として発表された、赤、橙(だいだい)、黄色をイメージした3色のグラデーションを用いた新カラーデザインをラッピングしたことも大きな特徴です。
実証実験期間中、新カラーデザインをまとった車両は、舞岡営業所に導入された2023年式の三菱ふそうエアロスター2PG-MP38FK大型ノンステップ路線バスの社番(事業者の固有番号)「お30」しかなかったため、ひときわ注目を集めました。

営業所配備から実証実験開始までの間はどうしていた?

今回の自動運転バスは平塚営業所を拠点にして実証実験を行いましたが、車両自体の所有者はいすゞで、実証実験期間中に神奈中へ貸し出しされた格好になりました。
平塚営業所への配備は2023年10月24日でしたが、実証実験のスタートは2024年1月22日で約3カ月近くの間があり、「平15」系統のバス停に貼り出してあった掲示には2023年11月下旬から2024年1月19日までの間を「車両調整」と記載していました。

そこで神奈中へ具体的にどのような調整を行ったのかを含め、この間車両などがどうしていたのかを尋ねてみました。
すると、自動運転で走行するための走行路や速度、ブレーキタイミングなどの調整や信号機からの情報受信による車両制御の反映を含め、実際の交通環境に合わせた調整を行っていたとのことでした。
また、調整期間の終盤では運転士への自動運転車乗務訓練を実施していたとのことでした。
このほか、車体への新カラーデザインのラッピング施工なども行い、実証実験に向けてさまざまな準備が進められていたようです。

自動運転のキモとなる装置は?

それでは、ここから今回の自動運転バスのキモとなる装置を見ていくことにしましょう!
装置は車両前面に集中して備え付けています。

まず、左右ヘッドライト上にある出っ張りは、自車と対象物との間の距離を計測する「ミリ波レーダーです」。

つぎに、屋根上にある青い筒状の装置が「LiDAR(ライダー)」と呼ばれるものです。
LiDARは、“Light Detection And Ranging”の略で、レーザー光を照射し、その反射光の情報をもとに対象物までの距離や対象物の形などを正確に計測する装置です。

LiDARは車体の左右中ほどの屋根上と後面上部にも備え付けており、車体の4方向からデータを得ている格好になります。

また、フロントガラス内側には望遠・広角カメラもあり、信号機の色認識を行っています。

さらに前面と後面のLiDAR付近の2カ所、前扉と運転席引き違い窓直上の2カ所の計4カ所に遠隔監視カメラを備え付けています。
これらのカメラが映した映像情報は神奈中本社に設けた遠隔監視室へ送られ、安全運行のため遠隔監視員が監視を行います。

自動運転の進展こそ乗務員に存在意義あり!

つづいて、車内ものぞいてみることにしましょう!
車内は実証実験のため、前方に機器が置かれていることを除いては、特段、一般的な大型ノンステップ路線バスと比較して座席レイアウトなどに大きな違いは見られません。

運転席の様子。
意外にも自動運転バスと言っても、表面的には一般的な大型路線バスの様子と変わりなく、特別目立つ装備などは見受けられません。
変速機は6速AT(Automatic Transmission:自動変速機)です。
今回の実証実験は運転操作の主体が運転士で、システムがアクセルやブレーキ、ハンドル操作を部分的に行う「レベル2」であるため、「自動運転バス」と一言で言っても、やはり乗務員がいなければなりません。

神奈中に乗務員不足の現況と今回の自動運転バス実証実験をこれからどのように活かしていくか尋ねたところ、現状、乗務員不足については、かなり厳しい状況であるとのことでした。
それをふまえて、将来的には自動運転の実用化により、この乗務員不足問題を解決していく必要があると考えているとのことですが、人がシステムを作り、そして車両を走行させながらチューニングを行うことから、大型二種免許保有の運転士は職人として将来にわたり活躍の場があり、自動運転の進展によって消えるものではないと考えています。
そして、今後全てを自動運転化する発想ではなく、路線特性によって、乗務員が運転する路線、システムに任せる路線のすみ分けを行い、人とシステムの最適な協調領域を見つけ持続的な地域公共交通の提供を目指していきたいとのことでした。

※ 協力 : 神奈川県中央交通株式会社
※ 写真(特記以外)・文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 記事中の車両についてのお問い合わせなどを事業者など関係各所へ行わないようお願い申し上げます。

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