小田急バス初導入の大型EV路線バス[後編]
車内ノンステップエリアの様子は?
小田急バスが武蔵境(むさしさかい)営業所へ初導入した大型EV路線バスは、中華人共和国のメーカーBYDのK8です。
車内は国産の大型路線バスとの違いはあるのでしょうか?
早速、車内に入って見てみることにしましょう。
前扉から乗車し、車内前方から後方を眺めてみると、側窓下部のコーナーが丸みを帯びたデザインになっていたり、天井から側面にかけての形状が独特な雰囲気だったりすることなど、国産大型路線バスとは細かな違いは見て取れるものの、実用上は大差ない印象です。
前中扉間がノンステップエリアで、中扉以降が段上げエリアとなっていることも、国産大型路線バスではよく見かける構造です。
座席は全て前向き座席で構成しており、ノンステップエリアにあるものは全て1人掛けで、中扉直前の3脚は優先席となっています。
ノンステップエリアの運転席側の座席は最前列の1脚を除いて4脚がはね上げ式となっており、はね上げると2台分の車イススペースになります。
これら4脚のはね上げ式座席は、国産座席メーカーの天龍(てんりゅう)工業製となっています。
座席4脚をはね上げて2台分の車イススペースを作った状態です。
座席の座面裏側には、はね上げた際に車イス利用客が使用できるようにメモリーブザー(降車ボタン)を備え付けています。
床面には車イスを固定するための金具も備え付けています。
国産大型路線バスのようにリトラクター(巻き取り)式の車イス固定装置を段上げ部分に備え付けていますが、前から3脚目となるはね上げ式座席の脚にもリトラクター式の車イス固定装置を備え付けています。
側窓下にはスマートフォンやモバイル機器などの充電が行えるUSB(Universal Serial
Bus:データ転送経路)ポートも備え付けています。
ノンステップエリアにある小田急バスならではの仕様は?
実は車内ノンステップエリアに、小田急バスならではの仕様が見られる部分があります。
それは車内中ほどに立って前方を眺めた時に分かりますが、標準仕様のBYD K8にはあって、小田急バス導入車にはないものです。
ヒントは前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)です。
答えは運転席側の右前輪タイヤハウス上に、標準仕様ではある1人掛け前向き座席を小田急バス導入車は設けていないということです。
右前輪タイヤハウス上は備品などを入れる収納ボックスを備え付けています。
ただし、標準仕様では右前輪タイヤハウス上の座席があることから、そのために取り付けているメモリーブザーがそのまま残っていることも特徴的です。
中扉付近の様子は?
中扉は左右に分かれて包み込むように開閉するグライドスライドドアで、2000年前後に製造・販売された国産大型ノンステップ路線バスでもよく見られましたが、近年では多くが引戸となっています。
中扉直前の側窓上部の冷房ダクト付近に取り付けられたスイッチは、輸入車のバスではおなじみですが、非常扉コックです。
中扉以降は段上げ構造となっており、最後部座席を除いて、通路をはさんで左右に2人掛け前向き座席を4列設けています。
段上げエリアで座席に注目!
ここで座席をクローズアップしてみましょう!
座席は一部を除いてBYD K8の標準的な仕様のもので、樹脂状の成型部品にクッション部分を貼り付けるように組み合わせたシンプルな構造です。
ノンステップエリアの1人掛け前向き座席も、はね上げ式のものを除いて同様の構造のものとなっています。
運転席側にある非常扉直前の2人掛け前向き座席は可倒(かとう)式で、非常扉を使用する際は前に倒して脱出口を確保しますが、段上げエリアではこの座席だけ国産メーカーの天龍工業製となっています。
最後部座席手前の運転席側の座席を倒して非常扉を開放した状態。
法令で決められていることから国産バスと同様に、非常扉直前の座席を倒してから非常扉の開放を行う手順で、非常扉を開けている間は連動して警報音が鳴り続けます。
最後部座席は5人掛けですが、1席ずつ独立した構造となっています。
また、1人掛け前向き座席のパーツを流用しているため、シートバック上部にグリップが付いています。
車内最後部座席から前方への眺めです。
各座席ともシートバックとグリップが一体構造のパーツとなっていることが分かります。
また、段上げエリアにはつり革は備え付けていません。
段上げエリアにあるポイントは?
段上げエリアの一番前の座席シートバック上部には仕切り板を取り付けていますが、次列の座席が高い位置にあることから、この座席に座った乗客の頭部と次の列の乗客のひざ部分が乗降の際などに干渉しないようにするためのものです。
メモリーブザーが窓際で上方を向いて取り付けられているものがあることも、国産大型ノンステップ路線バスでは見かけないポイントです。
段上げエリアの運転席側一番前の仕切りに車内案内表示器のモニターを取り付けたことも、右前輪タイヤハウス上の1人掛け前向き座席撤去と同様に小田急バスならではの仕様となります。
なお、中扉直後にあたる位置へのモニター装備は、小田急バスの路線バスとしては今回が初めてとのことです。
運転席の様子は?
最後に運転席を見てみましょう!
運賃箱や系統設定器、次停車表示灯などのワンマン機器を中心に国産メーカー製の装備が見られますが、EVバスならではのシンプルなデザインのコックピットは、従来の国産大型ノンステップ路線バスの運転席と印象を異(こと)にします。
ステアリングホイール(ハンドル)廻りの様子です。
メーターパネルが電光式で未来感があふれています。
ステアリングホイール左横にはセレクトボタンとホイールパーク式のハンドブレーキのレバーがあります。
メータークラスター(計器盤)左側にはメイン電源のボタンがあり、いかにもEVバスらしい雰囲気がただよいます。
メータークラスターの上には、車内後方と中扉付近の様子を映し出すモニターも備えており、車内の状況を確認することができます。
2024年3月16日より営業運行開始!
小田急バスが本格的な営業運行に使用するため初めて導入した大型EV路線バスは、2024年3月16日から走り始めました。
おもに、三鷹駅~仙川の「鷹54」系統や三鷹駅~調布駅北口の「鷹56」系統に充当しており、乗務員慣熟のためダイヤを固定していますが、将来的には武蔵境営業所管内の全路線で運行を予定しているそうです。
慣熟中はダイヤを固定し、おおむね朝ラッシュ時から夕方までの運行をしているため、1日あたりの走行キロが70~90kmとなり、1台あたりの充電には2時間から3時間を使って翌日の運行に備えているとのことです。
今後、小田急バスの大型EV路線バスがどのように展開していくのか、期待して見ていきたいと思います。
※ 協力 : 小田急バス株式会社
※ 写真 : 伊藤 岳志
※ 文 : 宇佐美 健太郎
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て、2024年3月に取材・撮影したものです。
※ 記事中の車両についてのお問い合わせなどを事業者など関係各所へ行わないようお願い申し上げます。
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