まさに温故知新、西鉄バスの「レトロフィット電気バス」 [前編]
古いけれど新しい「レトロフィット」とは?
西鉄グループのバス事業者である西鉄バス北九州の小倉(こくら)自動車営業所では、2022年6月より「レトロフィット電気バス」の運行を開始しました。
「レトロフィット」とは技術用語で、古い機械や装置を改造して新しい技術を組み込むことを指します。
「レトロフィット電気バス」は、もともとディーゼルエンジンを搭載した一般的なバスからエンジンや排気装置などを取り除いた後、新たに駆動用のモーターを搭載するなどして改造し、生まれ変わったものです。
ベースとなったのは西日本車体工業、通称「西工(にしこう)」製のボディを架装した、2007年式の日産ディーゼル・スペースランナーRA PKG-RA274MAN改。
当初は千葉県内などに路線網を展開する船橋新京成バスにて、ディーゼルエンジンを搭載するごくありふれた大型ワンステップバスとして導入され、活躍してきましたが、経年によりいったんお役御免となります。
そこから「レトロフィット電気バス」に改造され、新天地の福岡県で新たな活躍を始めた格好です。
そして、約1年間の営業運行の実績を積んだ後、2023年6月より西鉄の片江(かたえ)自動車営業所へ新たに2台の「レトロフィット電気バス」が導入され、営業運行を始めるに至りました。
「レトロフィット電気バス」誕生のキッカケは?
西鉄が「レトロフィット電気バス」導入に乗り出したのはなぜでしょうか。
同社では2016年頃、自動車事業本部技術部にて環境対応を目的に検討し始めたことが契機になっており、2019年より住友商事から西鉄に対し、中華民国(台湾)の電気バスメーカーRAC Electric Vehiclesの電気バスについて紹介を受けています。
ただ、当時、西鉄としては、電気バスは導入コストが大きいことと航続距離が短いことを課題と認識していました。
しかし、RAC Electric Vehiclesの技術を用いた「レトロフィット電気バス」の導入がそれらの課題の解決案となるとの意向で住友商事と一致。
RAC Electric Vehiclesは住友商事の出資企業でもあることから協業先として選び、2020年夏頃から「レトロフィット電気バス」協議を開始しました。
そして、2021年5月、ベースとなる日産ディーゼル・スペースランナーRA PKG-RA274MAN改の大型ワンステップバスを台湾へ移送。
現地で設計開発を行って完成させ、再び日本へ移送しました。
2022年6月より営業運行を開始した西鉄バス北九州小倉自動車営業所の車両がまさにその1台となります。
なお、この車両は実証を行うため住友商事がベース車を調達したことから、出自が西鉄グループのバス事業者ではなく、偶然、船橋新京成バスの車両になったとのことでした。
「レトロフィット電気バス」第1号車は台湾生まれ
「レトロフィット電気バス」第1号車となった西鉄バス北九州小倉自動車営業所の車両は、台湾で製造が行われた格好です。
その理由は、台湾で設計開発を行い、現地で製造を検証するためです。
日本から台湾へ車両を移送し、1年ほどの期間を要しました。
設計開発においての苦労は、走行距離を伸ばすためバッテリーを多数装備する必要があったものの、保安基準での重量規制と乗車定員確保のバランスをとることでした。
また、設計開発期間は新型コロナウイルス感染症が世界中にまん延していた時期と重なっていたことから、全てインターネットを使ったWEB会議で、対面によるコミュニケーションが図れなかったため、完成するまで実車を確認することができず、車両構成の詳細確認に困難を要したとのことでした。
そして、2023年6月より西鉄の片江自動車営業所に導入され、運行を始めた「レトロフィット電気バス」の第2号車からは晴れて「国産化」。
西鉄グループの車両改造・整備を行う企業である西鉄車体技術にて、第1号車同様、日産ディーゼル・スペースランナーRA PKG-RA274MAN改の大型ワンステップ路線バスをベースにして、「レトロフィット電気バス」化を行いました。
バッテリーなどの一部の部品を台湾から調達。RAC Electric Vehiclesからも技術者を招き、教育指導を受けながら改造を行い、完成にこぎ付けました。
車両の基本仕様は2台目以降も台湾で製造された1台目と同じです。
「レトロフィット電気バス」第1号車の外観クローズアップ!
それでは、「レトロフィット電気バス」第1号車となった、西鉄バス北九州の車両を見ていくことにしましょう。
外観は一般的なディーゼルエンジン搭載のバスと特に変わりはなく、前中扉構造で前扉が折戸、中扉が引戸となる大型ワンステップ路線バスです。
側窓は上段引き違い・下段固定の逆T窓で、中扉戸袋窓手前に行先表示器窓があります。
後面は左右リアコンビネーションライトの脇に通風用の小さなグリルを新たに設けています。
また、同じ形状のグリルを左側面最後部のリアバンパー近くにも設けています。
リアバンパーの左側には排気管の切り欠きが残されていますが、電気バスになった今では、当然、排気管はありません。
登録ナンバーは「北九州230あ9725」、社番は小9725です。
カラーリングは白をベースにして、前方に大地を表す黄色、後方に水・空を表す青色のグラデーションを用いていろどっていますが、その間を葉のデザインの“0 EMISSION” “E-BUS”のロゴでつないで、自然の調和を表現しています。
また、北九州SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)マークも配しています。
全長10.79m、全幅2.49m、全高3.14m、ホイールベース(前後の軸距)5.3mで、乗車定員は67人となります。
なお、左側面後方の下部にあるもともとのエンジングリルはバッテリーや電装品などに熱がこもらないようにするため、残されたままとなっていますが、その直上にある排出ガス浄化装置に使用するAdBlue(アドブルー:高品位尿素水)の注入口もそのまま活かされ、充電器からケーブルを接続して充電する充電口となっています。
出力30kwの充電器の場合、フル充電に至るまでは8時間程度かかり、フル充電での走行距離は暖房使用の満員乗車の条件で約100kmです。
また、後面にある点検ぶたを開けると、「レトロフィット電気バス」化する前までディーゼルエンジンが鎮座していたエンジンルーム内には、バッテリーが備え付けられており、この車両が電気バスであることを物語っています。
モーターの最高出力は189kWです。
車内は「レトロフィット電気バス」ならではの装備も
つぎに車内を見てみましょう。
最も「レトロフィット電気バス」らしい部分は左右前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)付近に鎮座するバッテリーパックのカバーです。
それ以外は一般的なワンステップ路線バスと大きな差異はありません。
中扉直前が横向き座席となる以外は前向き座席で構成されています。
バッテリーパックのカバーは左右前輪のタイヤハウスに完全に覆いかぶさるような形で設けられています。
また、左右で形状も異なっています。
前中扉間はワンステップエリアとなり、中扉以降は段上げとなります。
段上げエリアは左右とも、中扉直後の2列が1人掛け、その後ろの2列が2人掛けとなり、背面にはメモリーブザー(降車ボタン)が取り付けられています。
最後部座席は5人掛けですが、その直後にはバッテリーなどのカバーがあるため、カバーの上に物を置かないように注意喚起(かんき)を行う標記が見えます。
運転席はステアリングホイール(ハンドル)やメーターパネルなどは基本的に大きな変更は行われていませんが、ステアリングホイール左側には、電池残量などを示す大きなモニターを新たに装備しています。
このモニターは電池残量のほか、モーターやバッテリーの状態や温度などを表示し、常にシステムの状況を確認することができます。
また、変速機はMT(Manual Transmission:手動変速機)から、アメリカ合衆国の自動車部品メーカー・イートン製のAMT(Automated Manual Transmission:自動変速マニュアルトランスミッション)に取り替えられていることも大きな特徴です。
ステアリングホイールの根本部分を見てみるとMTからAMTに変更されたことにより、MTの時にステアリングホイール根本の左側にあったクラッチペダルは姿を消し、右側のブレーキペダルとアクセルペダルのみが残されていることが分かります。
後編では、「レトロフィット電気バス」よりさらに前に西鉄が導入した、ディーゼルエンジン搭載の大型ノンステップバスから改造の電気バスを紹介します。
※ 協力 : 西日本鉄道株式会社、西鉄バス北九州株式会社
※ 写真 : 伊藤岳志
※ 文 : バスグラフィック編集部(宇佐美健太郎)
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両の営業所・車庫内での撮影要望を事業者へ行わないようお願い申し上げます。
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