2号車登場で関東でも楽しめるようになった「サバス」[ 前編 ]

冬期はサウナの利用率が高まるようですが、バス専門誌『バスグラフィック』Vol.43誌面や動画投稿インターネットサイトYouTubeでの『バスグラフィック』公式チャンネル「バスグラフィックTV」では、2022年に登場して大きな話題を呼んだ路線バス改造の移動型サウナ「サバス」を紹介しました。
2024年7月、その「サバス」に待望の2号車が登場し、関東を中心に営業を始めました。
今回はこの寒い季節にこそ利用したい「サバス」2号車を前編と後編に分けて、徹底的に紹介します!
■ 2号車のベースは東急バスの「ワンロマ車」

もともと「サバス」は、神姫バス社員の松原安理佐(まつばら・ありさ)さんが出向起業制度を活用して立ち上げたベンチャー企業「リバース」および、インターネットのサウナ検索サイト「サウナイキタイ」が企画・プロデュースしました。
2022年1月に完成した1号車は関西を拠点に営業を行っていますが、今回紹介する2号車は2024年7月に完成し、関東を拠点に営業を開始しています。
「サバス」1号車での事業の成功を受け、松原さんが関東拠点の「サバス」の必要性を感じていた際、バス業界を盛り上げたいという思いや、活躍を終えたバスをリノベーションする斬新さが東急バスの共感を得たことで、東急バスの路線バスをベースにした「サバス」2号車が生まれることになりました。
何と言ってもその特徴は、東急バスで活躍していた高速バスと路線バスの兼用車、通称「ワンロマ車」をベースにしていることです。

「ワンロマ車」の語源は「ワンマンバス」と豪華な座席の「ロマンスシート」を組み合わせたものだと言われています。
おもに、路線バスと貸切バスの兼用車や路線バスと高速バスの兼用車として、豪華な座席や仕様を持つ路線バスを「ワンロマ車」と呼んでいます。
東急バスでのワンロマ車はハイバックシートや補助席などを装備しており、高速道路や自動車専用道路を運行する一般路線バス、貸切バスなどで活躍しています。
以前は深夜急行バスにも使用していました。

そんな東急バスのワンロマ車が、なぜ「サバス」2号車のベースとなったのか、松原さんに尋ねてみました。
すると、リバースの事業拡大を検討し、首都圏のさまざまなバス事業者と話をする中で東急バスと話をした際、リバースの思いに共感してもらえたうえ、ちょうど引退したワンロマ車を松原さんが見て、思い描いていた「サバス」2号車のイメージにピッタリであったからとのことでした。
車種は三菱ふそうエアロスターKL-MP35JM改で2003年式。
路線バス時代は、東急バスの新羽(にっぱ)営業所に所属する元社番NI473(横浜200か1816)で、前中扉間ワンステップのワンロマ車として、東急電鉄の溝の口駅と新横浜駅の間を結ぶ「新横溝の口線」を中心に活躍していました。
「サバス」としての車検証上の諸元は、全長11.45m、全幅2.49m、全高3.56mで、乗車定員は2人となっています。
■ 見どころいっぱいの外観ポイント

それでは、「サバス」2号車の外観上のポイントを見てみることにしましょう。
各事業者での車両の固有番号である社番は「1137」、登録ナンバーも「横浜830さ1137」で、いずれも「いいサウナ」の語呂合わせになっています。
フロントパネル中央には「サバス」のマークがあしらわれています。

ベースとなった三菱ふそうエアロスター大型路線バスの標準仕様のフロントウィンドウは2分割となっていて、その上部に前面行先表示器窓が独立した形で装備されていますが、「サバス」2号車のフロントウィンドウは1枚モノです。
これはもともと東急バスのワンロマ車としての豪華な仕様の一つだったからで、前面行先表示器もフロントウィンドウの内側に収めています。
前面行先表示器には、LED(Light Emitting Diode:発光ダイオード)によって遊びゴコロいっぱいに「蒸37」系統の「サウナ」行きの文字が電光表示されます。

カラーリングデザインは東急バスの路線バスに似通ったイメージですが、サウナの後に入る水風呂(みずぶろ)をイメージしたブルーが入っていることが特徴で、前面には東急バスの路線バスのカラーリングである赤い塗り分けの下にしっかりとブルーのラインが入れられています。

前扉直後にある側面行先表示器も「サバス」2号車でそのまま活かしています。
路線バス時代には行先と途中に停車予定の主要なバス停を表示していましたが、短冊(たんざく)状の表示をうまく利用して、「サバス」2号車では、「蒸車」……すなわち乗車してから「ととのう」までの過程が電光表示されていてユニークです。

側窓下にはワンロマ車時代を思い起こさせるような金色のロゴで、「サバス」と書かれており、中扉上にもアルファベットのロゴがあしらわれています。
もともとは前扉が折戸、中扉が引戸の前中扉車でしたが、実はサウナ室の関係から中扉は締切扱いで使用できず、乗降は前扉のみで行います。

ブラックアウトした中扉の窓にも、白で目立つように「サバス」のロゴがあしらわれています。
側窓は引き違いの通称「メトロ窓」をそのまま活かしていますが、車内側にもう1枚断熱のための木枠(きわく)の窓を設けており、窓越しにその木枠とベンチの背もたれ部分が見えます。
屋根上には換気塔を備えていていることも分かります。
■ まだある「サバス」2号車の外観ポイント

リアビューも一見すると東急バスの路線バスとほとんど変わらないイメージですが、よく見ると随所(ずいしょ)に「サバス」の主張があります。
その中の一つである屋根上中央に見えるサウナストーブ用の煙突は、まさに「サバス」のアイデンティティと言えます。
側窓のガラスは一部を除いてブラックアウトしていますが、窓としての機能を持たない部分をブラックアウト処理している格好です。
サウナ室部分にかかる非常扉も締切扱いとなっていますが、すでに路線バスではないことから全く問題はありません。

ブラックアウトされたリアウィンドウにも「サバス」のロゴが描かれていますが、「路線バスを改造した移動型サウナバス」と、自らを説明するキャッチコピーも合わせて入れられています。

もともとあったエンジンリッド(点検ぶた)上の車外広告枠を利用し、運営会社リバースとコラボレーションしているインターネットのサウナ検索サイト「サウナイキタイ」もPRしています。

車体最後部に最高出力250馬力、総排気量12,882ccのディーゼルエンジン6M70型を搭載してします。

車体中ほどの屋根には堂々とサウナストーブ用の煙突が伸びています。
車内にはフィンランド共和国のストーブメーカーmondex(モンデックス)製のサウナストーブを設けています。
■ そもそも「サバス」2号車が登場するまで

初めて登場した「サバス」1号車は、兵庫県姫路市を中心に路線網を展開する神姫(しんき)バスで活躍を終えた大型ノンステップ路線バスを大改造して誕生しました。
ベースは西日本車体工業、通称「西工(にしこう)」のボディを架装した2002年式の三菱KL-MP37JKで、路線バス時代の外観イメージを損(そこ)ねないようにしながらも、車内には本格的なフィンランドのHARVIA(ハルビア)製サウナストーブを搭載し、できるだけ元の路線バスの装備を活用したサウナ室を設けたことが大きな特徴です。

大きな驚きを持って迎えられた「サバス」1号車でしたが、2022年3月から営業を開始したところ非常に好評で、松原さんによると「全国各地から多数のお問い合わせをいただき、東は栃木県から西は佐賀県まで多くの方々にご“蒸車"いただいた」とのことでした。
ただ、姫路市を拠点としていたことから、関東をはじめ姫路市から離れた場所で営業する場合には移動のためなどの費用がかかり、利用者の負担が重くなってしまうことが課題であると認識があったそうです。
そのようなことから、より多くの人々に「サバス」を体験してほしいという思いがあり、関東を拠点にした次の「サバス」の必要性を感じて2号車を作ったとのことです。

「サバス」2号車を製作するにあたって、松原さんは東急バスとの相談を重ね、2号車で営業を行う目的やそれぞれの役割分担と業務内容を話し合い、ベース車は東急バスを引退したワンロマ車と決めました。
これは松原さんがもともと思い描いていた「サバス」2号車のイメージに近い車両であったことのほか、バス愛好家にも貴重と思われて人気がある車両だったことが決め手になりました。
東急バスで活躍を終えたワンロマ車を有償譲渡してもらい、「サバス」2号車への改造工事が始まりました。

「サバス」1号車製作のノウハウがあったことから改造工事はスムーズにいったと思いきや、1号車の改造工事はリバースの拠点がある関西で行ったため、問題などが発生した場合の対処はすぐにできたものの、2号車の改造工事は関東で行ったためそれができません。
2号車の改造工事は埼玉県さいたま市にあるバスボディの改造メーカー恒陽(こうよう)で行いましたが、リバースと恒陽の間の約450kmという距離がネックになって、情報連携・対処には苦労したとのことです。
急きょ対応が必要になった際は、東急バスに初期対応をお願いするなど連携を密にして作業を進め、ついに2024年7月に「サバス2号車」は完成したのです。
後編では「サバス」2号車の車内に潜入(せんにゅう)します。
※ 協力 : 株式会社リバース、東急バス株式会社
※ 写真(特記以外) : 伊藤岳志
※ 出演 : 齋藤香奈(バスグライメージモデル)
※ 文 : 宇佐美健太郎(バスグラフィック編集部)
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に運営会社・事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを運営会社・事業者など関係各所へ行わないようお願い申し上げます。
この記事をシェアしよう!
フォローする
FaceBookのフォローは2018年2月で廃止となりました。
フォローの代わりにぜひ「いいね!」をご活用下さい。