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国内初のBEVフルフラット路線バス「エルガEV」を体験! [前編]

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いま自動車業界は100年に一度の大変革期と言われています。
従来の自動車メーカーの枠を超えた企業の参画もあり、EV(Electric Vehicle:電気自動車)や自動運転などの開発競争が激化しています。
バスについても同様で、日本政府が「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を掲げ、各バス事業者へもそれに向けての取り組みが求められるようになったことから、2020年代に入り、中華人民共和国の各メーカーが製造・販売するEVバスが急速に日本市場を席巻(せっけん)し始めています。
一方、日本のメーカーは、カーボンニュートラル対策としては、2010年代にディーゼルエンジンとモーターで走行するハイブリッドバスを普及させましたが、それより一歩進んだ脱炭素化を目指したEVバスについては、中国に後(おく)れを取っていました。
ところが、2024年5月28日、いすゞ自動車が満を持して、日本初のBEV(Battery Electric Vehicle)フルフラット路線バス「いすゞエルガEV」を発売。
2024年10月31日には日野自動車から、いすゞエルガEVと同じ構造、意匠(いしょう)を持つ統合商品「日野ブルーリボンZ(ズィー)EV」が発売され、国産EVバスの巻き返しが期待されています。
今回はいすゞ自動車の取材協力を経て、これからの時代の路線バス「いすゞエルガEV」を前後編に分けて徹底分析します。

■ 実は販売開始前にお目見えしていた

国内初のBEVフルフラット路線バス「いすゞエルガEV」が我々の前に初めてお目見えしたのは、実は2024年5月28日の販売開始の約半年前にあたる2023年秋のことでした。
2023年10月26日から11月5日までの間に東京ビッグサイト(東京国際展示場)で開催された国内最大の自動車ショー“Japan Mobility Show 2023”(ジャパンモビリティショー)のいすゞ自動車ブースで、市販前の「いすゞエルガEV」のコンセプトカーが展示され、大きな注目を集めたのです。
コンセプトカーは市販車よりも全長が長く、ショー向けのカラーリングデザインをまとっているなどして市販車とは一見して違いはあったものの、ほぼそのままの形で市販にこぎつけた格好です。
そもそも、いすゞ自動車は2022年2月28日発信のリリースで、日野自動車との合弁会社であるバスメーカー「ジェイ・バス」にて、2024年度よりBEVフルフラット路線バスの製造計画があることを発表していましたので、ショーでの展示は荒唐無稽(こうとうむけい)なものではなく、ほぼ市販車に近い仕上がりのものだったと言えます。

■ 国産EV路線バス市販化までになぜ時間がかかった?

これまで国産EV路線バスは市場で待望されていたと思われますが、本格的な国産EV路線バスがなく、中国勢のものに大きく水をあけられてしまっている印象がありました。
なぜ、国産EV路線バス開発・発売までに年月がかったのか、いすゞ自動車に尋ねてみたところ、「まず、社会の要請に応えるための構想に時間をかけていたから」とのことでした。
そして、実際の「いすゞエルガEV」の開発は2022年にスタートし、2024年2月に国土交通省の認可を取得しましたが、その間は国内での使用環境に向けた作り込みに必要な期間であり、一般的なディーゼルエンジン搭載の大型路線バスの開発期間と大きな差はなかったとの回答でした。

「いすゞエルガEV」は、社会や市場から公共交通機関としてのカーボンニュートラル化と車内事故ゼロを目指す安全性の要請に応えることを考慮し、市場に投入するのは車内に段差のないフルフラットEV路線バスが最適であるという判断から開発が始まりました。
開発のポイントは3つあります。
1. フルフラットフロアによる車内事故防止(乗客の安全)
2. カーボンニュートラル社会実現への貢献
3. 従来のディーゼルエンジン搭載車との乗り換えも考慮した運転者への負担軽減(操作ミスによる事故防止)

■ 「エルガEV」に見られる特徴と実力は?

それでは、「いすゞエルガEV」の細部を見ていくことにしましょう!
以前から製造・販売している一般的な大型路線バス「いすゞエルガ」とは前面、後面ともにデザインが全く異なっています。
屋根上にはさまざまな機器を備えていることが分かりますが、中ほどにデンソー製の外気導入型パッケージ電動エアコンを装備しています。
試乗車は、前扉が折戸、中扉が引戸で、側窓は一部が上段引き違い・下段固定の通称「逆T窓」ですが、ほとんどが固定窓となっています。
また、試乗車にはフルフラットで車内の床面が後方まで低いことをPRするグラフィックデザインを施しています。
カタログ上の諸元では、全長10.545m、全幅2.485m、全高3.3mで、ホイールベース(前後の軸距)は4.99mです。

屋根上は前方の大きく盛り上がっている部分が最も特徴的ですが、そこにはBEV路線バスでは重要となる高電圧の三元系リチウムイオンバッテリーを装備しています。
高電圧の三元系リチウムイオンバッテリーは屋根上だけではく、車体最後部の下方にも分散配置しており、両方を合わせて11個トータル容量は242kWhです。
これらは大韓民国の電池メーカーであるLGエナジーソリューション製です。
なお、「三元系」とは、ニッケル、マンガン、コバルトの3つの金属元素を使用していることを意味し、高容量かつ高エネルギー密度であることが特徴です。
また、バッテリー専用の水冷式温度管理システム「バッテリーサーマルコントロール」の採用で、高電圧バッテリーの温度をきめ細かく管理しています。

右側面後方の屋根上には、車体最後部床下に装備している高電圧バッテリーの温度調整システムの空気取り入れ口があります。
また、右側面最後部側窓直後とその下部には同様に、電装品を冷却するためのルーバーとグリルを備えています。

一般的な大型路線バスではディーゼルエンジンが搭載されている最後部に、「いすゞエルガEV」ではびっしりとDCDCコンバーターなどの電装品が収められています。
また、下部には高電圧の三元系リチウムイオンバッテリーを装備しており、屋根上とは別系統でこちらも「バッテリーサーマルコントロール」を採用しています。

左右後輪の車軸内側にそれぞれ1基ずつ搭載したインアクスルモーターによって走行します。
このモーターによって車内の左右後輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)間のフラットフロア化が実現できました。
モーター1基あたりの定格出力は87kW(約118馬力)で、最高出力は125kW(約170馬力)となり、2基合わせての最高出力は250kW(約340馬力)です(馬力のps値は編集部計算値)。
モーターはドイツ連邦共和国の自動車部品メーカーZF(ゼットエフ)製で、ディクスブレーキなどと一体になったユニット構造です。
なお、EVであることからトランスミッションはありません。

左側面最後部にある縦長四角のフタが充電口になります。
充電方式はCHAdeMO(チャデモ)規格で、外気温20度、充電出力50kWの場合、国内主流の350Vで充電できる高電圧バッテリーを採用していることから、3.2時間で20%の残量から80%まで充電できるとのことです。
フル充電での走行距離は約360kmです。

「エルガEV」の操作フィーリングはこれまでのディーゼルエンジン搭載路線バスに近いものをチューニングしていることが特徴とのことでしたが、実際に『バスグラフィック』が依頼したテストドライバーがテストコースでハンドルをにぎったところ、その言葉にいつわりはなく、想像以上に運転しやすく、従来の一般的な大型路線バスの運転経験があればストレスなく乗務ができるとの感想でした。

■ 個性的な前後のデザインの意味は?

フロントデザインは、いすゞの現行の大型路線バス「エルガ」ともハイブリッド連節バス「エルガデュオ」とも異なる新たなものです。
両端に配された縦長の三角形をイメージさせる未来的なデザインのヘッドライトに、いすゞブランドのアイデンティティの統一を図ったU字グラフィックのフロントパネルが大きな特徴です。
登録ナンバー上の黒い台形状の装備は「フロントブラインドスポットモニター」のミリ波レーダー照射部分です。
死角になりやすい車両直前の歩行者や自転車を検知して、自車に近付いた場合は運転席の警告表示で注意を喚起し、衝突の可能性があると判断した時は警告表示に加え、シートバイブレーターで注意を促します。
警報対象速度は自車が時速10km以下で走行中に、歩行者が時速3~5km、自転車が時速3~10kmで作動します。

未来的なデザインのヘッドライトは、いすゞの小型トラック「エルフ」や中型トラック「フォワード」と実は同じ部品を活用しています。

取材した試乗車では後面の大部分を黒く塗り、中央部にロゴを配していますが、リアデザインもフロントデザインに応答性を出し、U字グラフィックを採用していることが特徴です。
上方には後面行先表示器窓を備えていますが、試乗車ではメーカー名を固定表示しています。
最後部いっぱいに電装品が収められていることからリアウィンドウは設けていません。

前面・後面ともに新しいデザインを取り入れていますが、リアコンビネーションランプなど汎用品も流用しています。
ヘッドライトもそうでしたが、既存の部品を活用したうえでいかに従来とは違うデザインにするか腐心(ふしん)していることも「エルガEV」の特徴の一つと言えます。

後編ではフルフラットの車内を紹介します!

※ 取材協力 : いすゞ自動車株式会社
※ 写真(特記以外) : 伊藤岳志
※ 出演 : すみれ(バスグライメージモデル)
※ 文 : 宇佐美健太郎
※ 協力 : 青木 寛 
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件にメーカーの特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせをメーカーへ行わないようお願い申し上げます。

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