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京成トランジットバスの「ファン!バス」 [後編]

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京成トランジットバスは京成グループのバス事業者で、千葉県市川市の行徳(ぎょうとく)地区を中心に路線バスを運行しているほか、高速バス、テーマパークや企業などの契約・貸切バスを運行しています。
同社では2024年9月24日登録で、遊びゴコロあふれた一風変わった外観の大型バス「ファン!バス(FUN!BUS)」を導入しました。
今回はこの世界で1台しかない京成トランジットバスの「ファン!バス」の魅力を前後編の記事に分けて紹介していますが、後編記事では「ファン!バス」ならではの特別な車内へ『バスグラフィック』イメージキャラクターの布施貴美子(ふせ・きみこ)さんとともに潜入(せんにゅう)します!

■ のっけから何だかすごいバスを実感!

京成トランジットバスの一般路線バスの乗車方式は市川駅(南口)~舞浜駅の「市舞01」系統を除いて中乗り・前降りですが、今回の記事で紹介する「ファン!バス」は、前扉から乗車して車内後ろへ向かって進みながらそのポイントを見ていくことにしましょう!
前扉から車内に入り、後方を眺めるとまず目に入ってくるのが木目調の床上張(ゆかゆわば)りと、座席表皮であるモケットに鮮やかなグリーンを採用した前向き座席の見事なコントラストです。
前中扉間はノンステップエリアで、中扉以降が段上げとなっています。

運転席側の右前輪タイヤハウス(タイヤの収納部分)以降は折りたたみ式の1人掛け前向き座席が4席並んでおり、折りたたむと2台分の車イススペースになります。
中扉直前の床面に反転式スロープを装備しているため、車イスの乗り降りもスムーズに行えます。
側窓の下も床上張りに合わせて木目調になっていることが分かります。

よく見ると側窓のピラー(窓柱)にはスマートフォンをはじめとするモバイル機器の充電を行うことができるUSB (Universal Serial Bus:データ転送経路)ポートを備え付けており、このように充電を行うことができます。
運転席側のピラーに6カ所、扉側のピラーに4カ所の合計10カ所あります。

扉側の左前輪タイヤハウス直後も1人掛けの前向き座席が3席並んでおり、優先席となっています。
側窓のピラーには押しボタン(降車ボタン)とともにUSBポートを備え付けていますが、改めてこの写真全体をよ~くご覧下さい。
何か見慣れない装備はありませんか?

正解はこれ!
何と窓ガラスに貼り付くように押しボタンが装備されているのです。
配線はなく、一体、作動させるための電源はどこにあるのか、非常に気になります。

この押しボタンは、バスをはじめとする自動車や鉄道車両の電装品を製造するメーカーのレシップが開発した「無線客席押しボタンスイッチ」です。
ボタンを押すと無線信号を発信し、運転席にある受信器でその信号を受信して、計器盤近くに備え付けてある停車表示灯を点灯させ、乗務員へ次停留所での降車の意思を伝えます。
電池は不要で、ボタンを押した力を電気に変換して信号を発信する仕組みです。
車内の配線工事が不要になるため製造時の工期を短縮できたり、ワイヤーハーネス(配線網)の重量が軽減できることから燃費向上による環境負荷低減につなげたりする利点があります。

■ 中扉廻りも他のバスにはないポイントがいっぱい!

車内中ほどの位置に立って後方を眺めた様子です。
後方の屋根を一般的な大型ノンステップ路線バスより40cmほど高くして側天窓(がわてんまど)を設け、床面もかさ上げしていることから、中扉以降は大きく段上げされています。
クリーム色の仕切りも「ファン!バス」ならではの形状と備え付け方です。

車内後方へは、踏みヅラの大きいスリーステップ構造のため安全かつラクに進むことができます。
一般的な前中扉間大型ノンステップ路線バスの中扉以降の段上げはツーステップ構造であることから、この部分も「ファン!バス」では大きく異なる部分であると言えるでしょう。

中扉以降の段上げの2段目の位置の運転席側はもともと荷物置き場で、手スリと手スリの間にチェーンが渡されていましたが、京成トランジットバスへ移籍した際に立席(たちせき)スペースとなりました。
ただ、もともと荷物置き場であったことから高い位置に手スリなどを装備しておらず、万が一、この立席スペースに乗客が立って乗車していた時に急停車した際、乗客が車内前方へ投げ出されないよう、頑丈(がんじょう)な手スリとアクリル板を備え付けました。

京成トランジットバスのほんとんどの路線は中乗りとなるので、中扉の後側に整理券発行器とIC(Integrated Circuit:集積回路)乗車券のカードリーダーがありますが、「ファン!バス」ではそれらを前側の仕切り付近に備え付けていることが分かります。
後側にはすぐに小物入れのある物置き台を兼ねたボックス型の仕切りが来るため、整理券発行器やICカードリーダーを備え付けづらいことからです。

■ いよいよ観光バスにも負けない車内の「舞台」へ

いよいよ3段のステップを上がって中扉以降の段上げエリアへ足を踏み入れてみましょう!
段上げエリアに入るとまず左右の側天窓が目に入って来ます。
車内は光にあふれて非常に明るく、さながら展望車のようですが、床面もまるで舞台のようにひときわ高い位置にあることを実感します。
高いアイポイントからの眺望は観光バスにも負けないと言えるものです。
段上げエリアの床上張りも木目調となっているため、豪華(ごうか)な印象を受けます。

段上げエリアでユニークなのはかさ上げされた床面や側天窓だけでなく、運転席側の座席配置にも言え、横向き座席になっていることです。
先ほど紹介した立席スペースとの位置関係を見てみると、ステップ2段目の位置の高さにある立席スペースからもう1段上がった高さの位置に横向き座席がありますが、床面をかさ上げしていることで、もともとの側窓の下1/3ほどはふさがれており、横向き座席のシートバックの高さも、現状の側窓の半分くらいまでの高さになっています。

運転席側の横向き座席をよく見てみると、実は1人掛けの前向き座席と2人掛けの前向き座席の向きを変えて横向き座席としていることが分かります。
もちろん、これも一般的な大型ノンステップ路線バスでは見かけない構造と配置の座席になります。 

かさ上げされた床面により、非常扉ももともとのサイズの下1/3ほどが床面より沈み込みますが、非常扉の前には座席が設けられていないことから、万が一の際もより速(すみ)やかに車外への脱出がはかれます。

細かく分割された側天窓は上下2列ありますが、下の列のものは盛り上げられた屋根の側面部分に配され、上の列のものは屋根肩部分に配されています。
窓廻りは薄い木目調で処理されています。
身長169cmの布施貴美子さんの目の高さからも、立席客の視線の高さはおおよそ下の列の側天窓のあたりに来ることが分かります。

段上げエリアの扉側には2人掛けの前向き座席を2席設けています。
運転席側の横向き座席と扉側の前向き座席の組み合わせで、通路は広めに取られており、左右にある上下2列の側天窓によって、車内はルーミーな雰囲気をただよわせています。

最後部座席は1人掛け前向き座席を4席組み合わせて独立した4人掛けとなっています。
1人あたりの座席の幅も広めであるため、ゆったりとした印象です。

リアウィンドウ上部に、ポツンと1つ押しボタンを取り付けていることもユニークです。
当初から取り付けており、立席客の利便性を考慮したものだと想像できますが、こちらもレシップの「無線客席押しボタンスイッチ」になります。

一般的な大型路線バスでは左右側窓上部の天井両端部分に冷房用のダクトを配し、夏季に車内へ冷房装置からの涼(すず)しい風を送っていますが、「ファン!バス」は側天窓を設けていることから、冷房ダクトは通路頭上にあたる天井のセンター付近に配しています。

中扉以降の天井を約40cm盛り上げているため、前方の天井とは大きな段差が生じることをうまく利用し、大型モニターを装備していますが、車内案内表示器のモニターとして活用しています。
その左右には上記の冷房用ダクトがダイナミックに取り廻されていることが分かります。

■ 最後は前方へ戻って運転席へ

車両の前方から後方まで、随時(ずいじ)ポイントを見ながら「ファン!バス」を紹介してきましたが、再び前方へ戻って最後に運転席の廻りをチェックしてみることにします。
段上げエリアからステップを降りてノンステップエリアへ戻りますが、中扉直後にあるボックス状の仕切りは実は内部がくり抜かれているため、仕切り直後の2人掛け前向き座席に座った乗客は脚を逃(のが)すことができ、ゆったりとした気持ちで座ることができます。

ステップを下ってノンステップエリア降り立った、ちょうど中扉付近の天井にはプラズマクラスターイオン発生機を備えています。
空気中の水にプラスの電荷(でんか)、酸素にマイナスの電荷を与えてイオン化し、菌(きん)やウイルスに作用させて空気を浄化するため、高電圧によるプラズマ放電を起こし、イオンを発生させる装置です。

運転席直後の仕切りとフロントウィンドウ直上にも大型モニターを装備しており、車内案内表示器として活用しています。
運賃や次の停留所名、乗客への案内などを表示します。

車体は一般の大型ノンステップ路線バスと大きく異なる部分があちこちにある「ファン!バス」も、運転席には特段の変化はありません。
もともと「ファン!バス」は路線バスではなかったことから、京成トランジットバスへ譲渡された際に同社が採用しているワンマン機器に取り替えたり、新たに取り付けたりすることで、路線バスとしての運行ができるようになっています。
変速機は6速AT(Automatic Transmission:自動変速)で、操作はボタン式です。

大型モニターの下には、運転席からミラーでは確認しづらい車内の乗降扉廻りや運転席直後、中扉以降の段上げ部分といった死角となる部分を映し出すモニターを備え付けています。
「ファン!バス」完成時からもともと備えていた装備ですが、京成トランジットバス譲渡後も引き続き活用し、よりいっそうの安全確認に役立てています。

実際の利用時にはなかなか気付きにくいことですが、前扉直後にある1人掛け前向き座席の手前下部には金文字で「M283」の社番(京成トランジットバスでの固有番号)が書かれています。

■ 2025年4月1日から「京成バス千葉ウエスト」へ

「ファン!バス」は、中型路線バス専用運行路線である西船橋駅~諏訪(すわ)神社の「西船21」系統の「海神(かいじん)線」、本八幡(もとやわた)駅南口~二俣新町(ふたまたしんまち)駅入口の「二俣01」系統および本八幡駅南口~妙典(みょうでん)駅の「妙典05」系統の「原木(ばらき)線」は運行しませんが、それ以外の京成トランジットバスの全ての一般路線で運行できます。
導入にあたって同社の現場からは、運行路線は道幅が狭く、沿線に樹木の枝が張り出している区間もあるため、車体への接触を気にする声もあったものの、関係機関に全ての路線で「ファン!バス」に合わせた最大寸法を再認可取得したとのことでした。
2024年10月5日より運行を開始し、11月9日に開催された「第9回京成バスお客様感謝フェスティバル2024」にも展示され、広くお披露目(ひろめ)も行われました。

なお、今後、京成トランジットバスに大きな動きがあります。
京成グループではバス事業再編のため、2024年11月1日に経営管理を担(にな)う京成電鉄バスホールディングスを設立。
京成トランジットバスは松戸新京成バス、船橋新京成バス鎌ヶ谷(かまがや)営業所、東京ベイシティ交通と合併し、2025年4月1日に「京成バス千葉ウエスト」になることが決まりました。
海神線や原木線は2024年3月31日に廃止される予定です。
「ファン!バス」も写真のように2024年3月1日までにはいったん現社名を示す標記がマスキングされた後、同月11日にはマスキングとともに社名標記がはがされ、新体制への準備が進んでいます。
今後も地域に愛され続けるバス事業者として大いに期待していきたいところです。

※ 取材協力 : 京成トランジットバス株式会社
※ 出演 : 布施貴美子
※ 写真(特記以外) : 伊藤岳志
※ 文 : 宇佐美健太郎
※ 本記事内中に公開している写真は記事制作を条件に事業者の特別な許可を得て撮影したものです。記事中の車両についてのお問い合わせを事業者へ行わないようお願い申し上げます。

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